鹿島が残コン/戻りコンゼロとCO2削減のシステムを現場適用 改良でCO2固定率20%アップ:スマートコンストラクション
鹿島建設は、建設現場で発生する残コンと戻りコンをCO2を利用してゼロにするシステムを開発していたが、今回スパイラル分級機と特殊混合装置を新たに組み込むことで、CO2を固定する効率を20%高めた。
鹿島建設は、2022年に建設現場で発生するアジテータ車に残った「残コンクリート」と、荷卸しされずに出荷元の生コンクリート工場に戻される「戻りコンクリート」をCO2を利用してゼロにするシステムで、処理土にCO2を固定する効率を20%高めることに成功したと2023年8月23日に公表した。既に、熊本県菊池郡菊陽町で施工中のJASM新築工事で実運用し、取り出した骨材は現場内の通路に再利用したという。
1カ月で22.5立米の残コンと戻りコンを処理、CO2固定化率は2割増
建設現場で発生する残コン、戻りコンは近年、戻りコンの有償化や100%リサイクル技術が開発されるなど、さまざまな方法で試みられているが、大幅な削減には至っていない。
こうした中、鹿島建設は2022年、残コン/戻りコンの削減とCO2削減という2つの課題を建設現場内で同時に解決する技術を、東京大学大学院工学系研究科 教授 野口貴文氏の指導のもと開発。今回、システムのさらなる機能向上を図り、建設現場へ適用した。
システムは、建設現場内に設置する濁水処理装置に簡易な装備を追加し、CO2(液化炭酸ガス)を利用し、建設現場で発生する残コン/戻りコンをゼロにする。残コン/戻りコンを骨材と、CO2を吸収/固定し、中和した処理土に再生し、なおかつ排水のpHと濁度を下げて放流可能な水に処理する。
今回、導入したシステムでは、「スパイラル分級機」と「特殊混合装置」を新たに組み込んだ。スパイラル分級機で、生コン内の骨材を全て取り除くことで、既存の濁水処理装置の配管閉塞の回避や装置負荷の低減効果が得られ、特殊混合装置でセメント成分を含むスラリー(液体中に鉱物や汚泥などが混ざっている混合物)とCO2を効率よく混合、反応、固定させ、処理土のCO2固定率を飛躍的に高めることが実現した。
1カ月で最大22.5立方メートルの残コンと戻りコンを処理し、約40トンの骨材を資材として再生し、さらに処理土の中に約150キロのCO2を固定した。CO2固定化率は、従来システム比で20%増となった。
残コンと戻りコンから骨材の分離や洗浄を行うスパイラル分級機は、沈降タンク、スクリューコンベヤー、後付けした洗浄装置で構成。アジテータ車から沈降タンクに投入された残コンや戻りコンを、スクリューコンベヤーで上方排出口に送り出す間に、洗浄装置で洗浄した骨材を連続して排出。洗浄に使用した水は、沈降タンクでセメントと混合されセメントスラリーとなり、前処理槽へ送られる。
スラリーとCO2の混合や固定に使用する特殊混合装置は、ウルトラファインバブルを発生させて、気液混合を高効率かつ高速で行える。手順は、一次処理として、セメントスラリーに大量のCO2を吸収/固定させ、pHを11以下に抑える。その後、セメントスラリーを既存の濁水処理装置に送り、中和された処理土(炭酸カルシウムとセメントの混合物)とpHが放流基準値以下となった処理水に分離する。
システムを適用したJASM新築工事では、2022年12月から性能確認などの各種実証試験を経て、2023年2月から4月まで現場で運用した。今回、取り出された骨材は、現場内の通路に再利用している。
鹿島建設では今後、汎用性を高めるためシステムをコンパクト化し、建設現場への適用を増やしていく。将来は、システムで使用するCO2に建設現場で排出される重機などの排ガスを用いるなど、施工起因のCO2の削減を推進しくとしている。
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