現場BIMの活用例 Vol.1 「設備配管工事で総合図をBIM化する意義とは何か?」【現場BIM第3回】:建設産業構造の大転換と現場BIM〜脇役たちからの挑戦状〜(3)(3/3 ページ)
従来の設備配管工事の検証は、総合図をもとにした個人の目視や電卓、経験則により行われるのが常だった。これが、BIM化されると何ができるようになり、どう変わるのか?現場はラクになるのか?筆者の経験をもとに、設備配管の干渉チェックを例に考えてみる。
設備総合図のBIM化でワークフローを効率化
設備総合図をBIMデータ(統合モデル)にするメリットは、効率の良いワークフローが実現することにある。例えば、設備・電気のIFCデータを取り込み、そのオブジェクトデータを利用して建築工事の天井インサート割付が自動化される。天井インサート図と言えば、現場監督の新入社員として初めて書かせてもらえる施工図だが、新人でも書けるということは、要件も定義しやすく自動化も容易だろう。天井懐の有効寸法については、一例としてRevit連携のDynamo(ローコードビジュアルプログラミング)を用いることで、有効寸法を天井伏図で色分けして可視化できる。その際、電卓は一切必要ない。
先に述べた貫通可能範囲検証も、既に自動化を実現している。Revitで作成したBIMモデルにサブコンのIFCデータをリンクさせ、建築モデル内に貫通孔(スリーブ)を自動生成する。さらに、貫通可能範囲と離隔距離確認をRevit APIのプログラムで自動チェック。この作業を繰り返すことで、電気・設備の統合確認が簡略化される。そして、貫通孔に必要な補強鉄筋(既製品)や補強リングの数量も把握可能となり、発注業務の一部自動化も見込める。
このようにBIMであるからこそ、Dynamoやプログラムエンジニアリング(API)の自動処理が実現し、ひいては確認作業と補強に必要な資材の適切な数量把握や発注業務までも自動化され、作業効率化と品質管理の向上が同時に達成する。
干渉チェックでも、経験や熟練の技に頼らない新しいワークフローが可能になる。配管の多い工場では、確かに2Dでも施工はできるが、BIMであれば正確な配管配置と、間違いのない干渉チェックが担保される。
マンションのように配管が規格化できる可能性のある建物では、BIM統合データの集積により、配管などの統合モデルをテンプレート化して、計画・設計段階でフロントローディングを行うための施工段階の検討も“規格化”できるのではないかと筆者(M&F tecnica守屋)は考えている。
例えば、天井懐(ふところ)寸法が規格化されるということは、計画・設計段階の検討で、階高から構造体スラブ厚、天井ボード厚、LGS野縁、野縁受けを引き配管が納まるテンプレートが用意されているわけで、その検討が容易になる。床懐(ふところ)も同様だ。あるいは、梁を貫通させる必要がある場合、その貫通位置の検討では、構造体の構造上で貫通可能な範囲内なのか、貫通孔と貫通孔の離隔距離は適切かを検討し、さらには貫通孔自体の補強方法なども検討しなくてはならないが、これを計画・設計段階で行えというのは無理があるから、規格化されていれば、計画・設計段階ではひとまず規格に従って検討しておけばよいということになる。
フロントローディングが重要だとしても、設計段階でこれまでやってこなかったことを求めるわけだから、ただ旗振りだけで動かすのは難しい。ファミリの集積がBIM作業効率をUPさせたのと同様に、BIM統合データの集積は必ずやフロントローディングの実現に寄与するだろう。
最近ではVR(仮想現実)体験も、ハードウェアやソフトウェアの進化により、容易に行えるようになってきた。VR体験では、統合モデルを仮想空間で確認することで、建物の中に埋設されて肉眼では見えなくなってしまった設備や配管のメンテナンスすらも容易になる。さらに、AR(拡張現実)技術を用いれば、地中に埋まっている設備配管を現実空間上にトレースすることもあり得る。仮に、取り付けられた地中埋設物にIoTセンサーを仕込み、BIM/CIMモデルなどのデジタルデータとリンクすれば、デジタルデータがリアルデータとデジタルツインで連動するので、データそのものの利用価値が一層高まる。建築でのIoT化もまだまだ発展途上にあるが、建築のIoT化には、デジタルデータ(BIMモデル)が不可欠であることは否めない。
このように、BIM統合モデルは、建物を建てるために存在する施工図や総合図というレベルを超え、干渉チェック機能をはじめとするワークフローの変革、そしてそれ自体が新しい付加価値を得て、設備施工の規格化が進むことにより、設計段階でのフロントローディングの実現に貢献する。
筆者の雑感
これまで述べてきた事項については、「実現場で果たして実現可能か」が最大の課題である。今回の連載までは、スケジュールの問題については、ひとまず置いて議論を進めてきた。だが実は、スケジュールこそが壁となる。BIMモデリングは通常のCAD編集と比べ手間は異なるため、従来のスケジュール感で進めようとすれば間違いなく破綻してしまい、2Dの方が速いことになってしまうだろう。BIMでやろうとしたが、間に合わず、結局まずはいったん2Dで施工し、後からBIM化するという全くもってデジタルデータの恩恵も受けられず、体験もできないようなことになってしまう可能性がある。これではBIMが単に「悪」として語られてしまいかねない。
前稿でも取り上げたように、現場では間違いなく、「2Dでいいんじゃないか」というような意見も出てくるだろう。しかし、もはや建設DXは待った無しの状況にあるとして、建築の在り方を変えていかなければならない中、統合図をデジタル化すること(=BIMによる統合モデル)の意味を見いだす必要がある。そうは言ってもまずは、便利で興味のあるスマホアプリを使うのと同じぐらい気軽な気持ちでも良いのかもしれない。
ところで、筆者が施工管理の従事時代に一番こだわっていたのは、いかにサブコン(電気・設備)をうまく逃がすかだった。多様な工事関係者が出入りする施工現場では、いかに交通整理するかで現場がうまく回るかが決まり、決するのはサブコン(電気・設備)なことが多いからだ。効率的に気持ちよくサブコンに仕事を終えてもらえれば、ゼネコンが一気にまとめ上げられる。
このことは、建設DXでも変わりはない。BIMでの統合モデル化も、その目的の1つは、電気・設備の負担をいかに逃がすかに掛かっており、BIM化により、正確かつ効率的に実現する。しかも、新しいDX的な付加価値を得てだ。
建築のワークフロー全体でフロントローディングが重視されているが、ミクロ的なBIM化でもフローやルールを定めておくことは重要で、現場でも既に重要性を認識している。現場では、自身の経験をもとに、「BIM化をやめよう」ではなく、現場のBIMを機能させるために、建築全体のフローのあるべき姿、ルール化を声高に発するべきではないだろうか。筆者らは、本稿のような事例の積み上げが、ひいてはフロントローディングを実現するために必要な(設計はもっと頑張れ、というだけでは実現しない)施工フェーズの「規格化」につながるものだと確信している。
著者Profile
山崎 芳治/Yoshiharu Yamasaki
野原ホールディングス グループCDO(Chief Digitalization Officer/最高デジタル責任者)。20年超に及ぶ製造業その他の業界でのデジタル技術活用と事業転換の知見を生かし、現職では社内業務プロセスの抜本的改革、建設プロセス全体の生産性向上を目指すBIMサービス「BuildApp(ビルドアップ:BIM設計―製造―施工支援プラットフォーム)」を中心とした建設DX推進事業を統括する。
コーポレートミッション「建設業界のアップデート」の実現に向け、業界関係者をつなぐハブ機能を担いサプライチェーン変革に挑む。
著者Profile
守屋 正規/Masanori Moriya
「建設デジタル、マジで、やる。」を掲げるM&F tecnica代表取締役。建築総合アウトソーシング事業(設計図、施工図、仮設図、人材派遣、各種申請など)を展開し、RevitによるBIMプレジェクトは280件を超える。
中堅ゼネコンで主に都内で現場監督を務めた経験から、施工図製作に精通し(22年超、現在も継続中)、BIM関連講師として数々の施工BIMセミナーにも登壇(大塚商会×Autodesk主催など)。また、北海道大学大学院ではBIM教育にも携わる。
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