パナソニックとヤンマーがコージェネ事業で協業、両者の強みが融合したワンストップの廃熱利用システム:コージェネレーション(2/2 ページ)
パナソニック 空質空調社とヤンマーエネルギーシステムは、分散型エネルギー事業で協業することを決めた。両社が共同で取り組む分散型エネルギーシステムとは、電気を使用する場所の近くで発電することで送電ロスや廃熱の無駄を抑えて電力を供給する仕組み。エネルギー分野で、世界がかつてない規模の変革期に直面する今、注目を集める技術とされている。
10年間で2000億円までの新規需要を見込む、コージェネ事業
協業の背景と事業概要は、パナソニック 空質空調社の小松原宏氏が解説した。事業コンセプトは、ヤンマーのマイクロコージェネレーションシステムとパナソニックの吸収式冷凍機を組み合わせ、「エネルギーを創り、無駄なく使う」だが、ではなぜこの両者なのだろうか。
一般的な集中型エネルギーシステムの総合エネルギー効率は40%程度にとどまる。対してマイクロコージェネレーションシステムは70〜80%もの高い総合エネルギー効率を達成するため、はるかに効果的だ。その一方で、運転時に発生する廃熱処理の問題もあった。
コージェネレーションの廃熱に限らず、熱は遠隔地に運べない。だが、その場で使わなければ冷めてしまい、多くが無駄になってしまう。ヤンマーのマイクロコージェネレーションシステム事業でも、かつては廃熱の処理は現場に任されていたため、捨てられてしまう熱が6割に達していた。パナソニックでは、熱を使って冷房するというユニークな機械(=吸収式冷凍機)で業務用空調を行っていたものの、その原動力となる熱の手配が現場任せだったため、効果的に使えていなかった。
そこで今回のパートナーシップにより、捨てられていた熱を生かすべく互いの課題を補い、エネルギーロス削減の実現確度を高めていくと決めた。
一般には仕組みが分かりにくい吸収式冷凍機だが、原理は規模の大きな「打ち水」だ。水が熱で水蒸気になるとき、気化熱を奪い温度を下げるが、この原理を大規模に行うのが吸収式冷凍機となる。「水」という地球温暖化係数ゼロの液体を用いる唯一の冷凍機といえる。真空中で水は6.5度で気化するため、吸収式冷凍機は真空ボックスで水を気化させて冷やしている。
しかし、吸収式冷凍機にも課題があった。いったん気化した水蒸気を水に戻すため吸収液を用いるが、水と吸収液の分離に熱が必要だ。従来はガスを燃やしていたが、コージェネレーションの廃熱を使えばランニングコストはゼロになるのではと、パナソニックは考えた。
コージェネレーション+吸収式冷凍機が生み出す効果は明白で、これまでにも実現した現場はあった。しかし、コージェネレーションの廃熱をうまく活用して吸収式冷凍機を動かしている現場の割合は全体の11%にすぎず、こうした仕組みはまだ十分には活用されていない。これまでコージェネや吸収式冷凍機の従来のターゲットは大規模施設だったが、コントローラーを開発し、最適運転を行う簡単なシステムができれば、従来ユーザーとなり難かった中小事業者を対象とした大規模な需要が生まれるはずだ。パナソニックとヤンマーは、そうした新たな需要の市場規模を10年間で、2000億円にまで拡大すると試算した。
吸収式冷凍機を開発製造しているパナソニックは、空調分野で50年以上の歴史を持つ。分散型エネルギーに関わるシステムをワンストップで扱っており、顧客の要望に応えて提供できる体制を築き上げている。一方、マイクロコージェネレーションシステムの工事を長年取り扱っているヤンマーは、システムの心臓部となるエンジン部のパイオニアとして、全国で営業サービス体制を展開し、半世紀余りも国内シェアトップを走り続けている存在だ。両社が開発や販売で協力すれば、互いの足りない部分を補完し合い、まさしく「強みの掛け合わせ」と成り得る。
ワンパッケージで1万m2の施設をメインに提案
こうして動き始めた両社の協業で、最大のポイントとなるのは、コージェネレーションの廃熱を有効活用するための「専用コントローラー」となる。ヤンマーが提供した運転状況のデータをパナソニックも共有し、「どんな状況の解きにどんな熱が出てくるか?」「その熱を使ってどう冷房すれば有効か?」を研究し、操作するための専用コントローラーを開発した。さらに、マイクロコージェネレーションと吸収式冷凍機、専用コントローラーを組み合わせたユーザーにとって分かりやすく、相談もしやすいワンパッケージの提案スタイルも他との差別化になる。
今後は、ワンパッケージの提案で、学校や病院、工場、公共施設などの中小規模事業者(1万平方メートル以下程度の施設)を中心に提案活動を進めていく。営業は2023年1月に開始しており、出荷は同年7月からの計画だ。
効果検証については、7500平方メートル100床規模の病院施設でのエネルギーの使われ方をもとに試算。その結果としては、マイクロコージェネレーションは無く吸収式冷凍機だけを用い廃熱利用0%と、システムを導入して専用コントローラーで廃熱利用を制御した場合と比べると、CO2排出量で29%削減、エネルギーコストは37%削減されると算出された。まさにマイクロコージェネレーションシステムにより、CO2排出削減と省エネの両立が可能になるわけだ。
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