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木質構造物の高層化という挑戦 Vol.3 アキュラホームの純木造5階建て住宅木の未来と可能性 ―素材・構法の発展と文化―(10)(2/2 ページ)

本連載では、一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYAを主宰する一級建築士の鍋野友哉氏が、近年環境に優しいなどの理由で関心を集める木材にスポットライトを当て、国内と世界における木造建築の歴史や最新の木造建築事例、木材を用いた構法などを紹介する。最終回となる今回は、神奈川県川崎市にある川崎住宅展示場で、2022年10月に竣工したアキュラホームの純木造軸組5階建て住宅について採り上げる。

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一般の木造建築物と比較して1.5〜2倍の木材を使用

 ちなみに、耐火木造建築物では、どうしても構造材は石こうボードなどで木造軸組部のほとんどが被覆されてしまいがちですが、アキュラホーム純木造軸組5階建て住宅では、ファサードを構成している格子組水平力抵抗要素や薄物CLTを用いた水平力抵抗要素、キーテック製の純木質耐火構造部材「KEYLAM耐火」を被覆材として用いた構造柱などで、可能な限り木部の表しを実現しました。


2階の事務室(正面に木格子による水平力抵抗要素)

「KEYLAM耐火」被覆による1時間構造柱

 さらに、2階の床スラブを構成している1階の天井面については、建築基準法上、1時間耐火性能で問題は無いのですが、出火時の影響が最も大きいため、自主的に2時間耐火性能を持たせた防耐火設計としています。

 なお、モデルハウスは、多様な要望を受けることを踏まえ、プラン上、壁などを自由に変えられるように、耐火軸組で木造ドミノのような構成で設計しました。つまり、内部の壁は、なるべく水平力に抵抗する壁とせず、外周と竪穴廻りに集中させる計画としています。

 だが、こういったケースでは、高倍率の耐力要素が必要になるため、今回、3種類の水平力抵抗要素を開発して要素実験も行い、今回の設計に採り入れました。

 3種類ある水平力抵抗要素は、格子組による耐力壁、Jパネル(薄物CLT)を用いた高倍率耐力壁、厚物合板張り耐力壁で、これらには鉛直力を負担させず、水平力のみに対応する水平力抵抗要素として設置しています。格子組による耐力壁とJパネルを活用した高倍率耐力は、意匠上も表しとすることで、屋内側に木を表現しています。


Jパネル(薄物CLT)による水平力抵抗要素(施工時)

 また、2022年9月には兵庫県三木市にある実験施設「Eディフェンス」で、アキュラホーム純木造軸組5階建て住宅と同じ構造の建物を建設して加振実験を行いました。その時の様子はBUILTの記事でも採り上げられています。

 加振実験では、京都大学 生存圏研究所 五十田博教授や生活圏木質構造分野の中川貴文准教授が3次元モデルの加振シミュレーションを行い、安全性を確認した上で、実大試験体の加振試験を実施しました。


「Eディフェンス」での加振試験の様子

 加振試験によって挙動を確かめ、ほぼ構造計算とシミュレーション通りの結果が得られました。具体的には、構造体、開口部、外壁材などで、加振の影響がなく、ほぼ無被害であることが判明し、高い耐震性能が証明されました。現在、木造5階建ての耐震設計基準というものは存在しませんが、この実験で得られたデータが今後の基準として活用されることが期待されています。

 木材使用量に関して当該住宅の木材使用量は、一般の木造建築物と比較して1.5〜2倍で、炭素固定量は約84トンCO2。建築過程で生じるCO2排出量は105.4トンCO2(CO2換算)で、同規模のSRC造で発生するCO2排出量の200トンやS造のCO2排出量の180トンと比べると、約2分の1以下に抑えられています。これからますます建築分野でも個々の物件で、建築前後のCO2収支が着目されていくことでしょう。

 当該物件では、木造は多様な要望やリスクをしっかり想定すれば、それに即した設計を行うことで地震にも火災にも強く、環境に優しい建築物を作れることが実証できたかと思います。この建築物はモデルハウスですので、どなたでも自由に見学可能ですので、耐火木造にご興味ある方は是非足を運んでみてください。

 現在、アキュラ本社ビルも純木造8階建てで現在工事中ですので、こちらもご注目ください。今後ますます都市形大規模木造建築物の竣工例が、全国に増えてくることを期待しています。

著者Profile

鍋野 友哉/Tomoya Nabeno

建築家。一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYA主宰。東京大学 農学部 木質材料学研究室を卒業、同大学院修了。東京大学 客員研究員(2007〜2008)、法政大学 兼任講師(2012〜)、お茶の水女子大学 非常勤講師(2015〜)、自然公園等施設技術指針検討委員(2015〜2018)。これまでにグッドデザイン賞、土木学会デザイン賞、木材活用コンクール 優秀賞などを受賞。

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