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地盤調査データの“改ざん”がなぜ起きたのか?その対策と、液状化や地盤のリスクを調べる新手法災害大国ニッポンを救う地盤調査技術(3)(2/2 ページ)

本連載では、だいち災害リスク研究所 所長の横山芳春氏が、地震や液状化などの予防策として注目されている地盤調査について解説します。最終回となる今回は、2021年8月に起きた地盤調査データの改ざん問題や地震時の地盤特性を調べるための「微動探査」について紹介しています。

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地震時の液状化現象を対象とした調査

 話は変わるが、住宅の地盤調査というと、地盤に関わる全てをリサーチしていると思われることがあるが、大半の場合は、平時の地盤沈下と建物荷重の課題を対象としている。だが、果たしてそれだけで調査範囲は十分なのであろうか。

 というのも、ここ10年ほどで発生した多数の地震を受けて、平時の地盤沈下と建物荷重のリサーチだけでは不十分という認識が高まりつつある。

 例えば、2011年3月に発生した東日本大震災では、関東地方の湾岸部、川沿いなどで、地盤の「液状化現象」が発生した。戸建て住宅が立ち並ぶ場所で液状化現象が起きると、地盤沈下が発生し、住宅が大きく傾き、不同沈下が起きる他、鋼管杭や杭基礎が設置されていても周囲の地盤が沈下することで、ライフラインの破断をはじめとする大きな被害が生じる。

 液状化は、平時の地盤沈下と建物荷重により、不同沈下が起きやすい粘性土(粘土や泥などの土)ではなく、地下水の水位が高い場所にある緩い砂質土(砂を主体とした土)で震度5強以上の強い地震を受けると起きることがある。

 さらに、従来のSWS試験は、土に貫入する感触から土質の判別を行うが、得られる情報は液状化の検討には不十分なこともあり、ビルやマンションではボーリング試験で土を採取して液状化のリスクを検討するが、戸建て住宅ではコスト面での負担が大きく、液状化調査の義務化には至っていない。

 このため、特に2012年以降、一部の地盤調査会社ではSWS試験の調査報告書だけでなく、自主的に液状化検討を行っている。併せて、地図情報と周辺地盤情報を踏まえた液状化可能性の情報提供や、SWS試験機に取り付けた「土を採取する機材」などで、地下の土を採取し液状化検討を行う企業も存在する。

 なお、地盤補償では、通常は地震など自然災害は免責事項だが、一部の会社では液状化を対象とした地盤調査と対策工事に基づいた地盤補償を提供している。


液状化現象による宅地と地盤の被害の事例

地震を対象とした地盤調査〜微動探査

 地盤の地震時における問題は液状化現象だけではない。2016年に起きた熊本地震では、地盤条件が影響し、多数の木造住宅が倒壊した。地盤条件に関して、SWS試験結果で均質で良好な地盤の場所でも、建物と地盤が持つ周期が「共振」することで被害が大きくなってしまうことがある。

 一方、埋立地や盛土地などで地盤が揺れやすい場所だと、周囲より震度が1〜2階級上がる事態を招く。一例を挙げると、揺れにくい地盤では震度5強の揺れが、近くの揺れやすい地盤では震度6弱あるいは震度6強の揺れになってしまうこともあり、そこに立っている建物の被害も、揺れやすい地盤の方が大きくなる。

 このような地盤の揺れやすさや周期を計測する手法として、「微動探査(常時微動探査ともいう)」が、戸建て住宅の調査で2017年頃から実用化されている。微動探査では、掘削などが不要で、高精度の振動を計測する複数の機材を地面に十数分間置くだけで、人工的に発生させる揺れの「加振」ではなく、地盤を通る常時微動を調べられる。

 常時微動は、人では感知できない交通や川の流れに由来する振動を専用の機材で測る手法だ。GPSで時刻を秒単位で同期し、同時に所定の時間を観測しないと調査が完了できず、GPSによる位置情報の取得とあわせて、改ざんが発生しにくい。

 加えて、地下の層構造(硬い層に変わる深さ)調査、交通振動、地下空洞のリサーチへの活用も期待されている。

 共振しやすい、揺れやすい地盤であった場合、建物の耐震等級を向上するなど耐震性を上げた構造にする他、制振オイルダンパーの装着などで建物の倒壊を防ぐことができる。


地震時の地盤の特性を調べるための「微動探査」の事例と調査方法

今後の地盤調査の在り方

 微動探査のように多様な手法が登場している地盤調査の歴史を振り返ると、住宅地盤調査の主流であるSWS試験について、基本的な調査方法は、1976年にJISに制定されたことから、約50年前の手法といえる。SWS試験以外の調査手法もあるが、SWS試験の圧倒的なシェアと比べると導入は限定的だ。

 SWS試験と異なる方法が出現しなかった理由の1つは、SWS試験が圧倒的に簡単で迅速に使える調査手法で、地盤改良工事の価格とセット化して低価格で提供可能な利点にあると考えられる。一方、低価格でシェアを取ろうという業界の風潮も後押しした。

 しかし、本来は地盤調査方法に、適正な金額を支払い、かつ試験目的に応じて使い分けるべきで、地域や地盤条件によってさまざまな調査手法を併用して地盤の検討を行うことが望ましい。なぜなら、SWS試験は地震に関する検討が行えず、地盤条件によっては不向きなこともあり、導入後にやむを得ず他の調査法で再調査を実施したという例もあるからだ。

 また、住宅分野の地盤調査と改良工事では、ビルやマンションなどで使われる手法をベースに、小型かつ簡素化されたSWS試験専用の機器を利用することが多い。

 今後は、非破壊など複数の調査手法を組み合わせた調査なども増えていくだろう。取得したデータの検討にAIなどの導入が進んでいくことも容易に想定できる。だが、調査手法を考え、どのような調査を実施し、結果をどのように判断するかの主体はあくまで人である。

 さらに、地盤に対する関心が高まり、価格よりもコンプライアンスと技術力を持った会社が選ばれることで、地盤に関する事故や不具合、災害時の被災が減り、結果として住宅を建てた消費者が不利益を被ることがないような業界の自浄作用と、住宅を建てる方の地盤への関心・理解こそが大事である。

著者Profile

横山 芳春/Yoshiharu Yokoyama

だいち災害リスク研究所 所長。地盤災害ドクター。早稲田大学大学院 理工学研究科 博士課程を修了、産業技術総合研究所 地質情報研究部門などで、関東平野の地形・地質および活断層・津波に関する研究活動に従事した後、地盤調査会社で技術部長、技術本部 副本部長、一般社団法人の理事を歴任して現職。産学連携による地盤調査法の開発とその普及促進、被災地の現地調査、地盤災害に関する事前の防災意識の啓発に取り組んでいる。

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