地盤調査データの“改ざん”がなぜ起きたのか?その対策と、液状化や地盤のリスクを調べる新手法:災害大国ニッポンを救う地盤調査技術(3)(1/2 ページ)
本連載では、だいち災害リスク研究所 所長の横山芳春氏が、地震や液状化などの予防策として注目されている地盤調査について解説します。最終回となる今回は、2021年8月に起きた地盤調査データの改ざん問題や地震時の地盤特性を調べるための「微動探査」について紹介しています。
地盤調査データの「改ざん」問題
2021年8月、地盤調査と住宅の業界に激震が走った。発端となったのは、ある地盤調査会社に所属する地盤調査員が、数十件分の戸建て住宅を対象とした調査データを「改ざん」したというニュースだ。調査員が、スクリューウェイト貫入試験(SWS試験)で得られた一部の地点データを省き、別の現場で取得したデータを流用しただけでなく、一部の現場では全く調査を実施していなかった。
このようなことは、なぜ発生したのだろうか。幾つかの潜在的な理由が考えられる。まず1つは、地盤調査の主流であるSWS試験が「全自動式」の試験機を使用したとしても、ロッド(棒)の継ぎ足しや引き抜きなどの重労働を伴う点にある。
加えて、限られた工期のなかでは、夏の炎天下や風雨、降雪の日でも例外なく、場合によっては草刈りや機材のトラブルが発生しても、一日で調査地点の簡易的な測量などを複数の現場で実施しなければならない。
SWS試験は、得られた数値だけを記録(全自動式であれば機械的に得られる)すれば良いのではなく、土に貫入していく際の音や感触などを丁寧に記載することも求められ、敷地とその周辺に地盤沈下の兆候がないかなどを観察することも重要だ。
本来は地盤に関する知識と経験、技術が必須だが、価格競争による低価格化、慢性的な人材不足なども重なり、不慣れな調査員が対応するケースが増えている背景もあると想定される。
また、これまで「手動式」のSWS試験機は2人の作業員で当たることが前提だったが、「全自動式」の試験機が発売され、事実上1人での調査が可能となり、屋外の炎天下や風雨の状況下でも1人で作業を行えるようになっていたため、調査員次第では手抜きが発生する条件がそろっていた。
地盤調査の「改ざん」防止に向けた取り組み
地盤調査の改ざん問題に関しては、上記の事件が露見する以前にも、地盤調査データが疑われる事例が業界でしばしば話題となっていた。戸建て住宅ではないが、2015年にはマンションの杭工事でデータ改ざんが取り沙汰(ざた)されたこともある。その後、複数の地盤調査と改良工事の会社から自主的な不正の報告があった。しかしながら、このような事案は氷山の一角で、見えない地盤の問題は、表沙汰になっていないことも少なくないだろう。
こういった状況に直面して、地盤調査業界でもさまざまな対応がとられている。例えば、調査データ送付作業のシステム化とクラウド化をはじめ、現地の調査地点や写真などとGPSで取得した位置データを連動させることで、改ざんや転記などを防ぐ仕組みが構築されている。
しかしまだ、「手抜き」は発生する余地がある。一例を挙げると、地中の石やガラなどでSWS試験の貫入が進まない時には、ハンマーなどで打撃して再び貫入させていくが、十分に打撃せず、貫入が止まったとすれば調査を終了できる。SWS試験により、土を貫入することで生じる音や感触などの記載も、行わずに省略できてしまう。
一方、各地盤会社では、2021年に起きた地盤調査データ改ざんを受けて、再度多様な予防策が講じられているが、最後は調査員のコンプライアンスと技術の向上によるだろう。また、調査結果から地盤解析を行う解析担当者の力量が十分であれば、改ざんされたデータがあれば違和感があり、アラートを出すことができるケースもあるだろう。
データの改ざん問題について、著者は、質の高い調査員と解析担当者が定着するように、地盤調査が価格だけでなく、品質も含めて評価されることを願っている。
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