「FMS合金」を用いた「レンズダンパー」の構造性能評価の取得、飛島建設ら:制震
レンズダンパー推進協議会の5社は、共同で研究開発を行っている制震ダンパー「レンズダンパー」に疲労特性に優れた新材料として注目されている「FMS合金(Fe-Mn-Si系合金)」を採用し、構造実験にて有効性を確かめた。また、LSPDの採用実績により培った技術、LSPDの性能評価方法、研究成果、FMS合金での実験結果などをまとめ、「LSPD設計・施工マニュアル」を刷新して、2022年3月25日付で日本ERIにて構造性能評価を取得した。
レンズダンパー推進協議会※1の青木あすなろ建設、飛島建設といった5社は、共同で研究開発を行っている制震ダンパー「レンズダンパー(LSPD、Lens-type Shear Panel Damper)」に疲労特性に優れた新材料として注目されている「FMS合金※2(Fe-Mn-Si系合金)」を採用し、構造実験で有効性を確認したことを2022年9月2日に発表した。
※1 レンズダンパー推進協議会:青木あすなろ建設、飛島建設、鉄建建設、西松建設、ダットで構成。
※2 FMS合金;一般流通材として入手可能となった材料で、優れた疲労特性を備えている。
LSPDの採用実績は新築案件と耐震改修案件で計10件
日本国内では近年、2011年に東北地方太平洋沖地震が発生しただけでなく、2016年には熊本地震で2日間にわたり大地震が複数回起きるなど、大地震が多発しており、長時間の地震動や繰り返しの大地震への対策が重要とされている。
そこで、レンズダンパー推進協議会は、LSPDを共同開発した。LSPDは、建物に設置することで、地震に対する建物の変形を抑制して、被災後における建物の継続使用性を確保する。
さらに、共同住宅では、住民の快適な生活を維持することが可能となる他、企業のBCP対策に貢献し、SDGsが推奨する「住み続けられるまちづくりを」に向けた取り組みにもつながる。
具体的には、間柱やブレースなどの周辺部材を介して建築物に取り付けられ、地震時に建築物に生じる変位をLSPDに伝達し、LSPDにせん断変形を生じさせることで地震エネルギーを吸収させ、建築物の地震時応答変形を抑えられる。
加えて、中央部の両面に凹レンズ形状を有し、パネル全体に応力やひずみを分散させられ、凹レンズ形状がない場合はフィレット部へ応力が集中しフィレット部が早期に破断するという問題を解消している。
LSPDのエネルギー吸収性能は「平均累積塑性変形倍率」という指標で評す。平均累積塑性変形倍率は、地震時の繰り返しの変形によるエネルギー吸収量を無次元化した値で、LSPDが吸収することのできるエネルギー吸収量を保有性能とし、LSPDが地震時に吸収しなければならないエネルギー吸収量を必要性能とする。
LSPDの設計では保有性能が必要性能を上回ること(保有性能≧必要性能)をチェックすることで、建物の耐震安全性を担保している。LSPDに使用されているFMS合金は、鉄系形状記憶合金の一種で、化学成分の最適化によって繰り返し変形時の性能劣化を抑え、優れた疲労特性を持つ。
また、FMS合金は、LY225と比較すると最大荷重は2倍以上で、伸び量は1.5倍に達成し、高い耐力と優れた伸び性能を備えている。
なお、従来のLSPDは、中央の最薄部における厚さ(t)が板厚(T)の2分の1となるように、凹レンズ形状の曲率を設定しているが、FMS合金を用いたLSPDでは、曲率をパラメータとした加力実験により、最も優れたエネルギー吸収性能を発揮させられる形状として「t/T=2/3」を採用した。
2022年3月末時点でのLSPDの採用実績について、施設、事務所、工場、宿泊施設など、さまざまなS造建物の新築案件と耐震改修案件で計10件あり、レンズダンパー推進協議会、のHP(ホームぺージ)を通じて、LSPDの採用に関する問い合わせも多く寄せられている。
レンズダンパー推進協議会では、2012年にLSPDの開発に着手して以降、LSPDの性能評価法更新、新材料(FMS合金)の追加、LSPDを配置した建物における試設計の取りまとめを行ってきた。その集大成としてマニュアルも刷新した。
上記のマニュアルには、設計、製作、施工、維持管理の指針だけでなく、LSPDなどの制震ダンパー性能を構造部材として評価する性能規定型の設計である「告示エネルギー法」によるLSPD付き建物の設計指針と設計例なども掲載されている。また、日本ERIでマニュアルの審査を受け、2022年3月25日付で構造性能評価を取得した。
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