AIが構造物の損傷を判定して“説明文を自動生成”、点検を支援するAI先端研究【土木×AI第14回】:“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(14)(2/2 ページ)
連載第14回は、損傷程度の評価と分類の両方をこなす「マルチタスク学習」や構造物の損傷に説明文を自動で追加する「画像キャプション生成」など、インフラ点検を支援するAIの最新研究を紹介します。
「注意機構」は文章生成以外にも幅広い応用が見込まれる
注意機構で、道路橋の点検写真にAIを適用して生成された文章の例が下図です。損傷発生部位の名称や損傷の状況が言語で記述されています。将来は、より人間に分かりやすい表現で、点検作業を支援することが可能になることが期待されます。
注意機構は、AIが「どこを見ているか」というAIの内部情報を利用している仕組みですから、文章生成以外にも幅広い応用が考えられています。
ひび割れの検出は、インフラ点検におけるAI活用の重要な課題ですが、ひび割れの詳細が分かる教師データを作成するには、画像のなかのひび割れの領域をピクセルごとに人間が指定する必要があります(下図右)。
ただし、ひび割れの場所さえ分かればよいという程度であればバウンディングボックスで指定できますから、教師データの作成に掛かる手間は多少軽減されます(下図中)。さらに、その画像にひび割れがあるかどうかの判定であれば、分類すればよく、作業はかなり軽減されます(下図左)。分類程度の工数で、ひび割れのピクセルごとのセグメンテーションができると理想的です。
文献5の「Attention機構を用いたDeep Learningモデルによるひび割れ自動検出」では、「分類のAIであっても、そこにひび割れがあるという判断をしている以上、ひび割れ箇所がAI内部で着目されているのではないか」との発想で、分類用のAIに注意機構を組み込むことで、ひび割れのセグメンテーションを試みています。
下図が、注意機構を利用したAIによるひび割れ検出結果です。赤く塗られた部分がAIによって、ひび割れとして検出された領域になります。この研究では、注意機構を用いることで、分類用に作成した教師データから、高精度のひび割れ検出が可能であることが明らかになりました。今後、教師データ作成の大幅な効率化につながることが期待される結果となっています。
AIがどこを見て判断しているかというAIの内部情報を取り入れた注意機構を組み込むことで、より高度な点検や判断のサポートが可能になりつつあります。
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