日立がMVSに不審人物や荷物の置き引きを早期発見する新機能を拡充:AI
日立製作所は、独自開発したAI映像解析技術で監視・警備業務を高度化するソリューション「Hitachi Multifeature Video Search(MVS)」に2つの新機能を拡充しリリースした。新たなMVSでは、防犯カメラの映像を活用し、特定の行動パターンをとる人物をリアルタイムに検知する「行動検知機能」と荷物と人物の所有関係を認識する「荷物置き去り/持ち去り検知機能」を備えている。
日立製作所は、独自開発したAI映像解析技術で監視・警備業務を高度化するソリューション「Hitachi Multifeature Video Search(以下、MVS)」に、2つの新機能を拡充し、2022年8月4日に提供を開始した。
約90%の精度で対象人物を見つけられることを確認
国内の施設では、警備員の人手不足が深刻な状況にあるだけでなく、コロナ禍の影響でマスクの着用や検温などの感染症対策も求められている。
一方、政府や企業では感染症の拡大を抑制する取り組みを推進しているが、長距離移動を伴う観光旅行や大規模イベントなど、不特定多数の人が集まる機会も増加しつつある。加えて、駅、空港、公共施設、大規模商業施設の監視・警備業務では、事件と事故につながる特定行動や不審物などの発見と対応の重要性が増している。
そこで、日立製作所は、2つの新機能を搭載したMVSの提供をスタートした。新たなMVSでは、防犯カメラの映像を活用し、特定の行動パターンをとる人物をリアルタイムにセンシングする「行動検知機能」と荷物と人物の所有関係を認識する「荷物置き去り/持ち去り検知機能」を備え、施設内のトラブルや不審物を見つけられる。
人物の異常行動の早期発見を可能とする行動検知機能は、MVSに取り込んだ映像から、人物の骨格情報を読み取り、その骨格の動きを基に対象の人物がどのような動作をしているかを解析して、アラートを発報する。
具体的には、骨格の形状や各関節点の動きにおける変化などの情報を用いることで、対象人物の向きや背景、服装などによる見え方の違いで生じる影響を軽減し、高精度な検知を実現している。
加えて、9種類の特定行動(走る、しゃがむ、倒れる、蹴る、殴る、指をさす、見回す、立つ、歩く)を検知でき、暴力行為をしている人物や周囲を見回す動作を続けている不審人物、迷子の子どもなどを早期に見つけられる他、骨格の情報を事前にAIへ学習させることで、9種類以外の特定行動もセンシング可能。
荷物と人物の所有関係の認識を可能とする荷物置き去り/持ち去り検知機能は、MVSに取り込んだ映像から、荷物の置き去りや持ち去りを感知し、アラートを発報する。さらに、物と人物の所有関係をひも付けて認識することで、置き去り前後の移動経路や行動把握、荷物を持ち去った人物の追跡を実現している。
また、従来のMVSでは荷物の所有関係は人と荷物との距離で判定していたが、荷物と人物の所有関係の認識を可能とする荷物置き去り/持ち去り検知機能では、「キャリーケースをつかんでいる」「リュックを背負っている」といった画像上の特徴を深層学習することで高精度に判定する。
既に、日立製作所では2021年10月から、阪神電鉄とともに、兵庫県西宮市の「阪神甲子園球場」で複数回の実証実験を行っている。実証実験では、日立製作所の社員を対象に、球場内のコンコースやスタンド席に設置されている防犯カメラとMVSを接続し、帽子や服装などの全身特徴からリアルタイムに人物検索を実施した。
その結果、約90%の精度※1で対象人物を見つけられることを確認し、日立製作所では、新機能を備えたMVSを警備業務へ本格導入した際に、対象人物の発見・追跡に要する時間を最大80短縮すると見込んでいる。
※1 約90%の精度:発見できなかった10%の人物は、防犯カメラ前を通過しておらず、監視映像から見つけられなかったケースも含む。
今後は、スポーツイベントの会場などにおける混雑状況の可視化などで利用されいている同社の「Lumada」ソリューションと連携し、人手による監視業務の効率化や無人化、リスク管理の高度化につなげる。
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