なぜコマツが、施工プロセス全体の改革「DXスマートコンストラクション」を志すのか?新会社「EARTHBRAIN」の狙い:第4回 建設・測量生産性向上展(1/2 ページ)
建設産業は、労働力不足という大きな壁に直面している。しかし、減少する労働力に合わせて工事数を減らすという選択肢はない。労働力が減少する中でも仕事を続け業績を向上させるには、1人あたりの労働生産性を上げ、少ない人数で今まで以上に施工を行う必要がある。コマツは、建設産業が抱えるこうした課題の解決に向け、これまでにICT建機やマシンコントロール、ドローンといったテクノロジーを活用した独自の「DXスマートコンストラクション」に取り組んできた。
小松製作所(以下、コマツ) 執行役員 スマートコンストラクション推進本部長 四家千佳史氏(EARTHBRAIN 代表取締役会長)は、「第4回 建設・測量生産性向上展(CSPI-EXPO)」(会期:2022年5月25〜27日、幕張メッセ)で、「建設現場のデジタルトランスフォーメーションの推進」と題する特別セミナーを行った。
講演では、2015年から取り組んでいるスマートコンストラクションのこれまでの歩みと、建設現場のDXを実現するために同社が取り組む活動例が示された。
自分たちの“製品”で、課題を解決しようとしたが………
コマツは、2022年に創業101年目を迎える“老舗”企業。長い社歴のなかで、土木工事の現場で稼働する数々の重機を生産してきたが、昨今では、ICTを使って建設業界をけん引するスマートコンストラクションの企業としても注目されている。
昨今は、建設業界における深刻な労働力不足が叫ばれている。このような状況を見越し、コマツは、建設現場の効率性や安全性向上に役立つ、多くの新技術を投入してきた。
四家千佳史氏は、「労働者1人あたりの生産性を上げ、少ない人数で今まで以上に工事を施工していくことが労働力不足の解決策」と語る。
そのため、コマツでは何を売るかではなく、顧客の成りたい将来ビジョンに注目している。その現状と目標のギャップこそが、いま解決すべき課題となって浮かび上がってくる。
そしてコマツとしては、建設機械メーカーの立場で、自分たちの製品でこの課題を解決しようと考えた。2013年ごろには3D技術を使い、コントロールする建機を日本のほか、北米、欧州、豪州などの市場に導入。しかし、コマツの思惑通りの結果には至らなかった。
原因は、施工プロセス全体のなかで、コマツのICT建機が関わるプロセスがわずか2工程しかなかったためだ。「言い換えれば、ずっと自分たちの機械が動く部分しか見ていなかったということ」と四家氏は反省する。
施工プロセス全体で課題を理解し、一緒に解決する
こうした失敗を経て、コマツのスマートコンストラクションは、2015年に始まった。スマートコンストラクションは、コマツが知っているプロセスだけを最適化するのではなく、施工会社の入札から、施主に納めるまでの全プロセスで、顧客の課題を解決する取り組みとなる。だが、そこには問題もあったという。
スマートコンストラクションは、コマツの開発部隊、生産部隊、販売部隊にとって今までとは全く違った領域を扱うものだ。そのため、新たに部署を立ち上げ、専門部署としてプロジェクトをスタートさせた。ただ、この時点では、顧客の課題どころか、顧客が入札以外で何をしているのか、例えば設計中に何をしているのかなどを全く知らなかったという。
そこで、まず顧客の現場でオペレーション全体を見せてもらい、問題があれば、その都度で解決策を検討した。
最初に現場で顧客から聞かされたのは、土量の把握だった。そのため、地形を正確に計測するため、ドローンで上空から地形を計測し、3次元化する技術を海外で発掘して顧客に提供した。
また、現場の施工状況が分からないという要望には、ICT建機に蓄えられている施工履歴のデータを活用して、1日の施工土量を計算し、3次元化するアプリをクラウド上に開発した。当時を振り返り、四家氏は「課題を見つければ何かしらの解決策をとにかく突っ走りながら作った」と語る。
まだ、5Gなどの高速通信がなかった時代。土量把握のシステムは、画像データをサーバに送るだけでも丸1日を要したそうだ。さらに、計測に不要な車両などを画像から除去する作業も人の手で行っていた。しかし、2年後には、現場に置く画像処理に特化したエッジコンピュータ「エッジボックス(Edge Box)」で、不要物の除去や3次元化が自動化できるようになった。
土量計測のサービスは、7年後にはさらに進化し、広さ2ヘクタールの現場でも90秒ほどで処理が完了できるようになった(最大50ヘクタールまで対応可)。不要な物体の除去には、今ではAIを採用し、高度な選別を自動で行える。
コマツのスマートコンストラクションは、顧客が抱える課題の解決を効率化し、デジタル技術とともに進化した。しかし、本来コマツが目指す、「安全で生産性が高いスマートでクリーンな未来の現場」の方向性とは少し異なった。
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