IoTボルトを用いた「長大吊橋モニタリングシステム」の運用開始、IHI:導入事例
現在、国内では社会インフラの老朽化と労働人口の減少が同時に進行し、インフラを効率的に維持管理する手法の確立が喫緊の課題となっている。一方、橋梁(きょうりょう)をはじめとする社会インフラは、モニタリングを通じた適切な維持管理を行うことで、耐用年数を延ばせる。そこで、IHIとIHIインフラシステムは、NejiLawが開発したマルチセンシングIoTデバイス「smartNeji」を用いた「長大吊橋モニタリングシステム」を開発した。
IHIとIHIインフラシステムは、NejiLawが開発したマルチセンシングIoTデバイス「smartNeji」を用いた「長大吊橋モニタリングシステム」の運用を開始したことを2022年8月10日に発表した。
地震による橋の挙動と損傷度合いを即座に推定
smartNejiは,NejiLawの緩まないネジ「L/R neji※1」に締付力や加速度を検知する各種センサーと通信モジュールを搭載したマルチセンシングIoTデバイス(ボルト)。
※1 L/R neji:ボルトに右ネジと左ネジの両方を合わせたような特殊な溝を付け、ここに右回りナットと左回りナットをかけることで絶対に緩むことがない構造を実現。smartNejiもこのL/R nejiと同じ構造を採用している。
今回運用を開始したシステムに関して、山口県下関市と北九州市門司区を結ぶ「関門橋」で、床組み固定装置に使用されていたボルトをsmartNejiに差し替え、ボルトの締付力をモニタリングする。
床組み固定装置は、摩擦力を利用して地震時における吊橋の挙動を制御し、吊橋全体の損傷を抑える。こういった摩擦力が締付力と比例関係にあることから、締付けボルトにsmartNejiを使用して締付力を精確に検出することで設計通りの摩擦力を発生し、床組み固定装置の効力を高める。
加えて、将来に生じる締付力の変化も自動で検出し、日常点検の効率化が図られる他、地震発生時にはその前後のモニタリングデータから地震による橋の挙動と損傷度合いを即座に推定する。
なお、今回のモニタリングシステムは,smartNejiの有用性を実橋で確認するために、西日本高速道路の協力を受け、IHI、IHIインフラシステム、NejiLawが共同で、関門橋の一部である床組み固定装置を対象に運用していく。
今後は、smartNejiの性能を生かし、点検困難かつ振動を受けやすい部位や締付力の管理が重要になるボルト全般に適用範囲を広げ、国内外の長大吊橋における総合モニタリングシステムへと発展させていくことを目指す。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- OKIと前田建設がRC橋モニタリング技術を開発、50年の“ライフサイクル”を1種類の計測器で検知
沖電気工業(OKI)と前田建設工業は、OKI独自の光ファイバーセンシング技術「SDH-BOTDR方式」の計測高速化で、ワンストップで鉄筋コンクリート橋梁(きょうりょう)のライフサイクル全般にわたり、適用することが可能なモニタリング技術を開発した。両社はこの技術を用いた実環境での実証実験を2019年上期中に開始する。 - 橋の劣化状態を「貼るだけ」で把握できるフレキセンサー
産業技術総合研究所と大日本印刷は、橋などの道路インフラ構造体設備に貼り付けるだけで、ひずみ分布をモニタリングできるフレキシブル面パターンセンサーを発表した。 - 橋梁と通行車両の動画をAIで解析し劣化を推定する新システムを開発
これまで、橋梁点検では、技術者が目視や打音により異状を確認していたが、技術者の技量により判断が異なることや足場設置に多額の費用がかかることが問題だった。ハードルを解消するため、NTTドコモは、京都大学と協働して、橋梁とその上を走る車両を撮影した動画から橋の劣化をAIで推定する新システムを開発した。 - 斜張橋の調査ロボットにカメラ3台追加などの新機能、西松建設
西松建設は佐賀大学の伊藤幸広教授と共同開発した斜張橋の斜材保護管の自走式調査ロボット「コロコロチェッカー」に新たな機能を搭載した。新機能は、進行方向の前面にフルハイビジョンカメラを3台装備し、これまで調査ができなかった主塔接続部の状況を確認できるようにした。