橋梁と通行車両の動画をAIで解析し劣化を推定する新システムを開発:AI
これまで、橋梁点検では、技術者が目視や打音により異状を確認していたが、技術者の技量により判断が異なることや足場設置に多額の費用がかかることが問題だった。ハードルを解消するため、NTTドコモは、京都大学と協働して、橋梁とその上を走る車両を撮影した動画から橋の劣化をAIで推定する新システムを開発した。
NTTドコモと京都大学は2019年12月5日、橋の上を車が走行している動画から、AI(機械学習)で橋の劣化を割り出せるシステム「橋梁(きょうりょう)劣化推定AI」を世界で初めて開発したことを発表した。
各橋梁のデータ蓄積しAIの精度高める
橋梁劣化推定AIは、橋とその上を走行する車両を動画で撮影し、車両の重さを推測して、橋梁における複数のたわみから劣化しているかをAIで導き出す。具体的には、一眼レフカメラで撮影した動画を用いて、橋梁を通過する車両の重さと橋梁のたわみや揺れなどの変位を同時に解析し、AIにより橋梁の劣化を予測する。
橋のたわみは劣化だけでなく、車両の重さによる影響を受けるため、車量を推量し、橋のたわみを解析することが、劣化を正しく弾き出すことにつながるという。
京都大学大学院 工学研究科 社会基盤工学 金 哲佑(キムチヨウル)教授協力のもと、取り組んだ模型橋梁実験では、一眼レフカメラで撮影した動画から橋梁上を走行する車両の重さ、車両通過で発生する橋梁における複数点のたわみを同時に見積もることに成功している。さらに、取得した情報に基づき、AIで分析することで、模型橋梁上の異常も検出した。
従来、国内では約10〜30メートルに及ぶ長さの橋梁が多くを占め、目視や打音による点検が一般的だが、技術者の技量により判断が異なることが多いのが現状だという。経験豊富な技術者不足と、足場の設置が必要なため点検コストが高いという課題もあった。
近年ドローンなどを活用し、表面のひび割れや腐食などを画像解析から検出する橋梁点検が進められているが、表面にひびなどが現れる時点で、既に重大な損傷になっていることが少なくないという。業界では、老朽化が進んでいるインフラを効率よく点検する技術と、早期補修のために劣化を推察できる技術の開発が求められていたため、今回のシステム開発に至った。
橋梁劣化推定AIは、2019年12月9日から2020年9月30日まで富山市の八尾大橋で、実橋梁への適用可能性を確認する実証実験を実施している。
車両通行量やシステムの設置環境などは、橋梁の状況により異なるため、今後、定期点検やモニタリングで各橋梁のデータを蓄積することで、AIの精度を高めていく。橋梁のメンテナンスや劣化診断作業に対して、有効性や検出精度の検証を進め、2022年までに実用化し、将来的にはこの技術を活用して、橋梁の維持管理を効率化することを目指している。
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