山岳トンネルの防水シート張り付けで「長尺スラックシートシステム」を適用、大林組:山岳トンネル工事
大林組は、同社が開発した「長尺スラックシートシステム」を、国土交通省発注の「河津下田道路河津トンネル逆川地区工事」と西日本高速道路発注の「松山自動車道 明神山トンネル工事」に続き、茨城県発注の「(仮称)上曽トンネル本体工事(石岡工区)」に適用した。
大林組は、東宏や国際紙パルプ商事とともに、山岳トンネルの防水シート張り付け作業の効率化に向けて開発した「長尺スラックシートシステム」を、茨城県石岡市で施工を進める「(仮称)上曽トンネル本体工事(石岡工区)」に適用したことを2022年3月29日に発表した。
防水シートを別張りにし防水シートの展張と固定がより容易に
建設業界では、将来に発生すると予測される人口減少や少子高齢化に伴って熟練技能者の不足が懸念されており、一層の生産性向上を実現するために自動化技術の開発と普及が求められている。
そこで、大林組は、山岳トンネル建設の生産性を飛躍的に向上させる統合システム「OTISM※1(Obayashi Tunnel Integrated SysteM)」の技術開発を進めている。システムのうち、既に技術開発が完了している覆工(LINING)の品質向上・省力化システム「OTISM/LINING※2(オーティズム/ライニング)」はOTISMを構成する技術の1つ。
※1 OTISM:山岳トンネル施工における掘削作業の安全と生産性のアップや覆工作業の品質向上・省力化を図り、全体の生産性を高める一連のシステム。
※2 OTISM/LINING:トンネル覆工に関する一連のシステムをまとめたもの。防水シートの張り付け(長尺スラックシートシステム)、セントルセット(セントルの全自動セットシステム)、コンクリート(ニューロクリートNeo)、打設(ホース伸縮式連続打設システム)、養生(モイストキュア)といった5つの作業を集約しており、品質向上と省力化を実現する。
上曽トンネル本体工事で長尺スラックシートシステムを適用した際には、従来一体となっていた不織布と防水シートを別張りにしたため、防水シートの展張(てんちょう)と固定がより容易になった。
さらに、上下に移動せず同じ高さをまとめて施工できるように作業台車の最適化を図るとともに、任意のタイミングで防水シートを固定する「IHウエルド工法※3」を採用したことで、周方向でのクギ打ちによる固定作業量を約2分の1に削減した。これで、作業員1人当たりの施工速度(1日当たりにおける1平方メートルの防水シート作業スピード)が標準的施工速度(社内実績)の約2倍に上がった。
※3 IHウエルド工法:電磁誘導加熱(Induction Heating)を利用した防水シ一ト固定方法。防水シート背面の壁面にあらかじめ金属片を取り付けた円盤体を固定した後、加熱用のコイルを内蔵した装置を防水シ一トの上から円盤体に押し当てて通電すると、円盤体に誘導電流が流れて熱が発生。円盤体が加熱されることでその表面の樹脂が溶けて防水シ一トと円盤体を一体化する。
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