山岳トンネル掘削の作業状況を自動的に把握するAIアプリを開発、大林組ら:山岳トンネル工事
大林組とソウル大学は、山岳トンネル工事の生産性向上を目指し、コンピュータビジョンと音声を活用して、山岳トンネル掘削の作業状況を自動的に把握するAIアプリケーション「CyclEye」を開発した。今後、大林組は、CyclEyeをトンネル工事へ積極的に展開し、工事関係者間で作業状況の情報共有と施工管理に活用する。
大林組とソウル大学は、山岳トンネル工事の生産性向上を目的にコンピュータビジョン※1と音声を活用して、山岳トンネル掘削の作業状況を自動的に把握するAIアプリケーション「CyclEye(サイクライ)」を開発したことを2022年2月21日に発表した。
※1 コンピュータビジョン:画像情報をコンピュータに取り入れて処理し、必要な画像情報を取り出す技術。画像を検知するセンサーなどの機器や取り入れた情報を認識するための人工知能など、幅広い分野で研究されている
建設機械の配置状況と各作業に要した時間を自動的に算出
山岳トンネル工事の生産性を高めるためには、掘削作業の削孔(さっこう)と装薬、ずり出し、支保工の建て込み、コンクリート吹き付け、ロックボルト打設などの各作業に要する時間(サイクルタイム)を計測し、その時間を常に短縮させる試みが求められる。
一方で、機械の故障やミキサー車の到着遅れといった資機材の段取り不足を含むトラブルによる作業停止時間(ダウンタイム)は生産性を低下させる要因となり、山岳トンネル工事の生産性を向上させるためには、サイクルタイムとダウンタイムを最小化にする現場マネジメントが必須となる。
さらに、これまでサイクルタイムは、現場管理者が切羽(きりは)作業付近でストップウォッチやノートを手に取り計測を行っていたため、全サイクルを継続的に測ることは不可能だった。そのため、生産性向上の検討に必要なデータが不足していただけでなく、機械の故障時は、復旧が最優先となり、作業停止時間を測定し統計を取ることができなかった。
そこで、大林組とソウル大学はCyclEyeを開発した。CyclEyeは、山岳トンネル掘削時のカメラ映像データを画像認識AIと音声認識AIで分析するマルチモーダルAI※2によって、建設機械の配置状況、各作業にかかった時間を自動的に把握する。
特徴は、サイクルタイムとダウンタイムに関する情報を24時間365日自動で収集し、生産性向上に必要なデータの分析や現場マネジメントの手法を検討することが可能になる点。
※2 マルチモーダルAI:画像と音声など複数のデータを入力し、統合的に処理する深層学習手法
具体的には、山岳トンネル掘削時の映像データを物体検知・物体追跡で分析することで各建設機械の動きを把握する他、同じ建機を使用する削孔と装薬、ロックボルト打設作業では、「本体」「腕のような役割をするブーム」「高所作業を行う作業員を搭載するマンケージ」の位置関係を分析する姿勢推定技術を用いて各作業を識別する。
加えて、物体同士が重なってしまうとAIが物体を認識できなくなる点を踏まえて、作業時に発生する特徴音や機械のエンジン音など、建設現場で発生する音をスペクトログラム※3で見える化して、音響シーン分類※4や音響イベント検出システム※5などの音声認識技術で補完することで、作業内容を推定する精度を高める。
※3 スペクトログラム:音の周波数の分析結果を横軸に時間、縦軸に周波数、信号の強さを色や濃淡で表したグラフ
※4 音響シーン分類:音が収録された場所や状況、周囲にいる人の行動(削孔作業、ずり出し作業、コンクリート吹き付け作業など)を分析する機械学習手法
※5 音響イベント検出システム:建設機械のエンジン音、車の走行音、岩石を積み込む音などより細かい音を検知する機械学習手法
さまざまなサイクルタイムも自動的に計測し図表の形で可視化する。例えば、コンクリート吹き付け作業時間の時系列データ表示や各グループの円グラフなどで選定した作業日のサイクルタイムを比べられる。サイクルタイムや作業員の累積経験数と達成度を学習曲線で確かめられるため、作業員のモチベーションをアップし、業務効率をアップする。
今回のアプリケーションでは、重機の稼働時間を継続的に計測することで、トンネル掘削作業時のCO2排出量を推定するだけでなく、協力会社が不在になり、ずり仮置き場の土量を把握することが困難な夜間作業では、ダンプトラックの搬出入回数記録からずり出し量を推測し、取得した情報が翌日のずり場外搬出作業計画の迅速な立案に役立つ。
また、各作業時における建設機械の位置関係データも取得可能なため、トンネル建設機械の自律化基礎データとして活用することが期待される。価格に関しては、市販のクラウドカメラを利用した坑内カメラとマルチモーダルAIで構成されているため、低コストでの現場導入を実現しているという。
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