ラインマンの育成術や電設業界の課題をETSホールディングス 東北送電事業部が解説:ニューノーマルを勝ち抜く事業戦略(2/2 ページ)
送電線の建設と点検に従事するラインマンの数は、全国で約1万人に上るが、そのうち、鉄塔に登って作業する人は約5700人で、電線に乗り出して作業する人は約3200人にとどまり、業界では人材不足が問題となっている。解決策として、ETSホールディングスは、新入社員の研修や労働環境の改善に注力している。
約半年間の研修で新入社員にラインマンの業務を教育
――人手不足の解決策について
千葉氏 人手不足に対する具体的な解決策として、当社では、人材育成と労働環境の改善に注力している。人材育成に関して、新入社員には入社後、座学や鉄塔での訓練などで構成される研修を行う。座学では、宮城県仙台市の事務所で、講師を担当するベテランのラインマンが、送電線建設技術研究会が発行する8種類の教本を利用して、新入社員に送電線工事の業務を3週間かけて説明する。
訓練では、当社が宮城県刈田群蔵王町で保有するラインマン専用の研修施設で、ベテランラインマン指導のもと、新入社員に鉄塔への昇塔や電線への宙乗りなどを行い、7日間の期間をかけてラインマンに必要不可欠な技術を習得させている。訓練の手順は、新入社員が昇塔訓練と地上などでの宙乗り訓練を実施した後、先輩社員が手本を見せ、鉄塔の昇塔と宙乗りを指導する。次に、多様な工種(組み立て工事、架線工事など)について教育し、各訓練とそれぞれの工種で実施工を繰り返す。
研修後には、OJTで、職場の上司や先輩が、現場での業務を通じて、約5カ月間の期間を設け、マンツーマンで教育する。OJTを含め約半年間の研修期間は、送電線工事を展開する他の企業と比較して長く、新入社員は現場で本格的に働く前にラインマンの仕事を覚えやすい。加えて、高所での作業を伴うため、現場での指導だけでなく定期的に講習を開き、新入社員に安全な作業方法を教えている。
労働環境の改善については、2021年に東北電力と協議し、2022年以降、大規模な送電線工事で宿舎を設置する場合に、コンビニなどの生活必需品が手に入る店舗近くのエリアとし、各ラインマンが1部屋を使えるようにした。さらに、新型コロナウイルス感染症拡大前では、芋煮会や懇親会を定期的に開催し、新入社員と先輩社員がコミュニケーションをとりやすい環境づくりを行い、コロナ禍では先輩社員が新入社員に出張先で体調などを小まめに聞くようにしている。
――今後の展開について
千葉氏 2022年9月には、東北電力ネットワークが、電力の広域連系を目的に、2031年の竣工を目指して、東京電力パワーグリッドに接続する連系線(東北東京間連系線)の送電線工事が着工する。東北東京連系線の工事で、当社は51基の鉄塔建設や架線工事などを行う。同年には他の顧客から受注した再生エネルギー施設に関する業務も実施予定で、今以上に人手が必要となるため、社員の雇用を促進し、職場に定着する取り組みも推進する。
最近の取り組み
ETSホールディングスは、千葉県を中心にクライミング施設の経営を展開するグリーンアローと、ラインマンのスキル向上と人材不足解消に向けた業務提携を締結したことを2022年3月9日に発表した。
業務提携における第1弾の取り組みとして、ETSホールディングスへ2022年4月に入社する新卒内定者が、クライミングを活用した新卒研修をグリーンアローのクライミング施設で行った。同年4月にも新入社員研修で同様の研修を取り入れる予定だ。
今後は、グリーンアローが展開するクライミング施設で、高い場所に登ることが好きな利用者に対し、ラインマンの魅力訴求や人材募集を実施することで、ラインマンの担い手不足解消やラインマン認知向上につなげるとともに、ETSホールディングスの社員がラインマン研修の場としても活用していく。
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