AIを用いた「最適発破設計システム」を国交省の現場で試行、戸田建設ら:山岳トンネル工事
戸田建設、Rist、演算工房の3社で構成されるコンソーシアムは、山岳トンネルの発破掘削工法として、最適な掘削形状となる発破パターンをAIで算出する「最適発破設計システム(仮称)」を開発した。今後は、最適発破設計システムが、発破の影響が大きいと思われる一部のパラメータをベースに発破設計の自動化を行ったものであることを踏まえ、多様な地質に対応するため、新たなパラメータを組み込み、精度を高めていく。
戸田建設、Rist、演算工房の3社で構成されるコンソーシアムは、山岳トンネルの発破掘削工法として、最適な掘削形状となる発破パターンをAIで算出する「最適発破設計システム(仮称)」を開発し、「官民研究開発投資拡大プログラム予算(PRISM)」を活用して国土交通省が実施する「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」に応募して、採択されたことを2022年2月25日に発表した。
余掘量誤差率は15.6%の精度を実現
最適発破設計システムは、これまで熟練トンネル技術者が手動で行っていた発破パターンの設定作業を、AIモデルに基づいた最適発破設計システムにより自動化する。現在、「国土交通省近畿地方整備局の福井河川国道事務所管内」で戸田建設が施工する「大野油坂道路新長野トンネル野尻地区工事」で、最適発破設計システムを試行中で、AI学習用教師データの収集は完了し、システムの実用性を確認している。
今回の試行では、「コンピュータジャンボの1孔あたりの穿孔データ」と「装薬量データ」「発破後の地山形状の3次元点群データ」を教師データとするAIモデルを採用した最適発破設計システムにより、最適な発破掘削形状となる穿孔位置や装薬量を自動で算出している。
さらに、発破後、ずり搬出開始までの短時間でAIの教師データである地山形状データを取得するために、実際に現場で実績がある演算工房の「ジープスキャンシステム」を採用。ジープスキャンシステムは、3Dレーザースキャナーと高性能PCを車両に搭載し、迅速な計測と退避を可能とする。
今回の試行期間では、「コンピュータジャンボによる穿孔データ」「穿孔ごとの装薬量」「発破後の3次元地山形状」といったパラメータを教師データとして蓄積し、約5000個(50切羽×100孔/切羽)のデータをAIに学習させた。加えて、試行期間のAIモデル(余掘量の推定)による判定結果は、余掘量誤差率(切羽1つあたりの平均)で目標20%に対し、15.6%の精度を実現した。
上記のAIモデルを採用した最適発破設計システムにより算出した発破パターンを現場で適用し、得られる成果と課題を今後の開発にフィードバックする予定だ。
また、最適発破設計システムを用いて、余掘量や発破作業後のずり搬出量、吹付けコンクリート量を低減することで、施工時間の短縮による生産性向上とコストカットが図れる他、減少傾向である熟練技術者に頼ることなく最適な発破設計が行える。
今後は、最適発破設計システムを他のトンネル現場でも適用するだけでなく、システムが発破の影響が大きいと思われる一部のパラメータをベースに発破設計の自動化を行ったものであることを踏まえ、多様な地質に対応するため、新たなパラメータを組み込み、精度を高めていく。
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