自然災害を未然に防ぐAI研究 降雨量や斜面崩壊を“LSTM”で予測【土木×AI第10回】:“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(10)(2/2 ページ)
連載第10回は、自然災害の被害を未然に防ぐためのAI活用例として、水位や降雨量の予測などの最新研究を紹介します。
LSTMで土中の水分状態を予測
豪雨は、水害をもたらす他にも、土砂崩れや地滑りなどの斜面崩壊を引き起こします。斜面崩壊には、雨水の浸透や地下水位など、土中の水分状態が多大な影響を与えることが知られています。しかし、費用などの面から、土中の状態のモニタリングを高密に行うのは困難です。
そこで、LSTMを適用することで、降雨量を入力して、土中の水分状態を予測した結果が下図です。含水率が降雨の際に増加する様子や雨が止んだ後に徐々に減少する状況が再現されています。
また、斜面崩壊を検知する目的で、地表の変形をモニタリングすることにもLSTMは利用されています。斜面崩壊の兆候があったり、リスクが高かったりする箇所に対し、センサーを設置してモニタリングする従来方法に加えて、近年は、GNSSなどの測位技術の発展により、地表の変形を面的に計測することも可能になったためです。
下図は、斜面崩壊を模擬した実験で、表面ひずみを計測したものです。下図右には、LSTMの結果も合わせて表示し、黄色の領域を教師データにその後の予測を行っています。予測値と実測値は当初は重なっていますが、1165秒付近で法先の崩壊が始まると、赤の予測と青の実測の値が乖離(かいり)していくことが分かります。深層学習は過去の経験から傾向を予測していますから、この時点で、過去の経験とは異なる何らかの異常が発生していることが推察できます。こうしたように、深層学習が過去の傾向を予測することを利用して、異常の発生を検知することが可能です。
※4 「深層学習による斜面表層ひずみの異常検知」平岡伸隆,吉川直孝,伊藤和也/AI・データサイエンス論文集2巻J2号p556-567/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2021年
災害の問題へ深層学習を適用する際には、災害自体が稀(まれ)な現象であるということに注意しなくてはなりません。災害時と通常時のデータをそのまま入力して、災害を検知しようとすると、災害データの方が圧倒的に少ないため、単に当てずっぽうで「災害なし」と判定するだけでも、高い正解率となってしまうことがあります。このようなデータの不均衡の問題に対しては、斜面の表面変形計測の例のように、実測と予測の差から異常を検知するなど、AIの特徴を踏まえて問題設定を工夫するのが1つの方法です。
その他にも、下図に示したように、多い方の通常時のデータを減らすアンダーサンプリング、少ない方の災害時のデータを増やすオーバーサンプリングなど、「サンプルバランシング」の手法が適用されることもあります。また、シミュレーションでデータを生成し、利用する方法や物理的知見を反映する方法など、いろいろな解決法の研究が進められています。
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