産業廃棄物処理施設向けのホウ素排水処理技術、ランニングコストを6分の1に低減:産業動向
NECファシリティーズは、廃棄物埋立処分場向けに繊維状キレート吸着材を用いたホウ素除去技術の開発に成功した。さらに、実施設へ導入し、優れた運用性能とコストメリットを実証した。
NECファシリティーズは、産業廃棄物処理施設(廃棄物埋立処分場)により発生する浸出水中に含まれるホウ素を安定的かつ効率的に除去する国内初※1の技術を開発しことを2022年1月21日に発表した。
※1 国内初:2021年12月31日現在、NECファシリティーズ調べ
優れた吸着除去能力を長期間保てることを実証
廃棄物埋立処分場における浸出水には、廃棄物を構成する物質由来の多種多様な成分が含まれている。難処理物質であるホウ素もその1つで、一般にホウ素の除去には樹脂※2を母体とした粒状キレート吸着材が用いられている。
※2 樹脂:スチレンジビニルベンゼン共重合体
また、NECファシリティーズは、ホウ素の吸着速度や吸着量に優れ、微細なセルロース繊維を母材とする繊維状キレート吸着材を開発したキレストと協力し、ランニングコストを大幅に減らせる大規模設備向けの装置を実用化※3しており、ホウ素を含有する排水処理に適用してきた※4。
※3 大規模設備向けの装置を実用化:「キレストファイバー GRY-HW」を開発したキレストとともに、大規模設備を実用化するためのデータ収集を共同で行ったもの
※4 ホウ素を含有する排水処理に適用:液晶パネル基板等ガラス加工工場へ導入
しかし、繊維状キレート吸着材は、優れた特性を持つが、廃棄物埋立処分場の浸出水に代表される、カルシウムなどの硬水成分や炭酸を高濃度に含む排水の場合には、通水を阻害する物質が吸着材に析出(せきしゅつ)し、水の流れを偏流させ長期的な運用が困難だった。
そこで、NECファシリティーズは、阻害物質が繊維表面に析出したケースの対策技術を開発し、浸出水に特有の成分を高濃度に含んでいても長期の安定稼働が可能となる技術を確立した。
具体的には、徐々に吸着材表面に炭酸カルシウムなどの物質が析出しつつある時に、吸着材を傷つけない程度の撹拌(かくはん)により析出物を切り離すとともに、酸アルカリの通液により析出物を溶解させることで、ほぼ完全に析出物を除去する。
既に、NECファシリティーズは、廃棄物埋立処分場に新技術を導入することで、優れた吸着除去能力を長期間保てることを実証し、浸出水中のホウ素を安定的に処理することを確かめた。
加えて、高い吸着除去能力の維持は繊維状キレート吸着材が持つランニングコスト低減という本来の優れた特性を生かすことにつながる。例えば、吸着材の再生形態でオンサイト型※5を用いた一年間の実証運転ではランニングコストを従来の6分の1にカットした。
※5 オンサイト型:装置内で吸着材の再生/再利用が完結する形態
今回の技術は、浸出水以外にも温泉排水、地熱水、ごみ焼却場洗煙排水に同様の阻害物質が多く含まれるため、今後こういった排水処理への適用拡大が期待されることを踏まえて、NECファシリティーズでは、こういった施設に設備を導入し、今後5年間で、新技術を用いた事業により売上20億円を目指す。
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