大林組らがトンネル覆工コンクリートの急速補修技術を開発、作業時間を35%短縮:施工
大林組は、コニシやケミカル工事とともに、覆工コンクリートの急速補修技術となるネットレスのはく落対策工法「ワンバインドスプレー」を開発した。今後、3社は、高速道路のリニューアル工事で、ワンバインドスプレーを積極的に活用して、交通規制期間の短縮や渋滞の緩和、トンネル覆工補修工事の高品質化を実現し、インフラ構造物の長寿命化に貢献する。
大林組は、コニシやケミカル工事と共同で、トンネルの補修工事における交通規制期間の短縮を目的に、覆工コンクリートの急速補修技術となるネットレスの剥落対策工法「ワンバインドスプレー」を開発し、東日本高速道路発注のトンネル工事で試行したことを2021年11月4日に発表した。
従来工法と比較して作業時間を35%カット
昨今、社会インフラの老朽化が社会問題となっており、国内の道路トンネルでも、約半数が今後10年間で建設から50年を経過することから、リニューアルが急務となっている。
仮に道路トンネルの覆工コンクリートが老朽化した場合には、構造物からコンクリート片が剥離あるいは落下し通行車両の安全性が損なわれないように、「繊維シート接着工法※1」による補修・補強が多く行われてきた。しかし、繊維シートの接着性を維持するために、多数の工程を要し、施工と交通規制の期間を短縮することが課題だった。
※1 繊維シート接着工法:既存のコンクリート構造物表面に繊維(炭素繊維、アラミド繊維など)シートを専用の樹脂で貼り付けることで、鋼板補強と同等以上の補強効果が得られる工法。鋼板より軽く腐食しにくいという特長もある
解決策として、大林組らは、覆工コンクリートの「小片はく落対策工※2」に対応したネットレスのはく落対策工法であるワンバインドスプレーを開発した。
※2 小片はく落対策工:剥落対策工は、構造物から落下する恐れのあるコンクリート片の大きさに応じて分類される。小片はく落対策工は、想定されるはく落塊の荷重が0.5キロニュートン以下のコンクリート片の場合に適用される。名称は、NEXCOトンネル施工管理要領での呼称
ワンバインドスプレーは、材料の変更に伴い薄層塗布でも強靭な塗膜が形成でき、繊維シートを使用せずに所定の押し抜き性能※3を確保可能な他、塗布作業を手塗りから吹付けに変えることで作業時間を短縮する。使用する材料は、燃焼時に発生する有毒ガスが基準値以下となるためトンネル坑内でも使え、材料を混合する必要がない1液型材料で、品質確保も容易だ。
※3 押し抜き性能:コンクリート構造物の変状によるコンクリート片の剥落を再現した押し抜き試験で、表面被覆材(繊維シート、吹付け樹脂など)が有するコンクリート片のはく落抵抗性を定量的に評価する指標
具体的には、従来の工法では、下地処理、プライマー塗布、シート貼り付け前の不陸修正(コンクリート表面の平滑化作業)、接着剤塗布(2回)、繊維シート貼り付け、仕上げの7工程が必要だったが、ワンバインドスプレーでは、繊維シートを利用しないので下地処理、プライマー塗布、はく落防止材吹付けの3工程だけに抑えられる。これにより、作業時間を従来工法と比較して35%カットする。
また、材料は、特殊なイソシアネート※4を配合することで、薄層塗布でも強靭な塗膜を形成し、所定の押し抜き性能を発揮する。塗布量は、これまでと比較して吹付け材料の約30〜50%になることで、燃焼時に発生する有毒ガスが基準値以下となり、トンネル坑内でも使える。
※4 イソシアネート:ポリウレタンの材料となる、非常に反応性に富む化合物
さらに、従来使用されていた1液型の吹付け材料は、硬化速度が遅いため、厚く吹付けると「液だれ」が生じていたが、ワンバインドスプレーの材料は、吹付けに適した粘性に調合した材料を薄層吹付けすることで液だれを防げる。材料の混合も不要のため、安定した品質確保が実現する。
ワンバインドスプレーの材料は、厳しい基準が設定されたNEXCO規格(トンネル覆工の小片はく落対策工)に準拠し、トンネル覆工はく落対策工に対応するネットレス工法で、延焼性、自己消火性、発生ガスの安全性の各種試験に合格している国内で唯一の工法だという。
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