AIを土木へ活用していくための3つの応用法、現場業務DXまでの道のり【土木×AI第3回】:“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(3)(2/2 ページ)
連載第3回は、土木領域でAIを活用するうえで、どのような応用方法が想定されるかについてを考えます。
AIによるデジタルトランスフォーメーションに向けて
現在のAIの応用を見ると、大きく3つに分類できるように思います。
1つ目は、人間の現在行っている作業を効率よく、また、高い信頼性で行う応用です。ひび割れ・損傷の画像からの抽出などはその一例であり、AIを用いることで、より高速に、しかも、見落としなく検出して記録することが期待されています。AIからみれば、定性的な判断や分類を人間に代替して行っていることになります。AIは常に同じ精度で作業を行うことができますから、繰り返しの多い単純作業には特に有効です。
2つ目は、人間の苦手な作業をAIが代わりに行うものです。例えば、人間は目視によって数を数えたり、寸法を求めたりなどの、定量的な評価はあまり得意ではありません。ひび割れの長さや幅を測るのも目視だけでは困難です。そこで、AIを用い、画像から定量的な評価や寸法計測を行う研究開発も盛んです。AI手法ではありませんが、ドローンなどで得られた複数枚の画像から、物体の3次元の座標や寸法を計測する「SfM(Structure from Motion)」という技術もよく使われています。
3つ目は、人間のできない作業、従来手法では困難な問題にAIを利用する手法です。一例としては、気象予測など難しい将来予測にAIを用いる研究が進められています。また、医療分野でも、AIによって、より高い精度でがんの検出が実現されるようになってきています。
身の回りの手間がかかっている業務や問題を、このような視点で見直してみると、AIが使えそうな場面が実は多いことに気が付くと思います。ニーズを見つけたら、それに適したAI手法は何か、そのためのデータは得られそうか、と考えを広げることで、新しいユースケースを作っていくことができます。このようなやり方で、日々のいろいろな業務を合理化していくことができるでしょう。
AIでできることはそれだけでしょうか。これまで解説してきたAIの活用法は、人間の現在の作業をもとに考えたものです。次の図で言うと、「現在の業務フローの中での効率化」にあたります。
今後、AIが普及し、当たり前に使われるようになると、業務のやり方自体、AIを前提としたものに変わっていくと思われます。AIの利用が点検で一般的になれば、今まで点検後に事務所で行っていた点検結果の記録やデータ化などの作業も、点検と同時に現場で一括して行うことができるようになるでしょう。実際に、護岸の点検を取り上げて、AIを活用していくために業務フローの改善を検討している例もあります※1。
このようにAIの活用が、従来の業務手順自体を大きく変えていく可能性を秘めています。単に個別業務をAI化するのみでなく、AIによって業務全体を見直して再構成するというのが、同じ図に示した「AIで高度化された業務フロー」で、AI技術の進展と相まって、将来は飛躍的に費用対効果を高めていくものと期待されます※2。AIによるデジタルトランスフォーメーションと言ってもよいかもしれません。
※2 「インフラ維持管理へのAI技術適用のための調査研究報告書」SIPインフラ連携委員会報告/土木学会 技術推進機構/2019年
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- “土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(2):【第2回】「深層学習」のブラックボックス、AIはどこを見て橋を分類しているか?
ここ数年、国が旗振り役となって推進しているi-Constructionの進捗により、土木分野でのAI活用が進んでいる。本連載では、「土木学会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会」で副委員長を務める阿部雅人氏が、AIをどのように使いこなしていくかの観点から、AIと土木の現状や課題、その先の将来ビジョンについて考えていきます。連載第2回は、機械学習の主要な手法である「深層学習」について発展の歴史とともに、詳しく解説しています。 - 木の未来と可能性 ―素材・構法の発展と文化―(3):木質構造建築物の多様性と可能性:CLTの導入によって拓かれる未来
本連載では、一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYAを主宰する一級建築士の鍋野友哉氏が、近年環境に優しいなどの理由で関心を集める木材にスポットライトを当て、国内と世界における木造建築の歴史や最新の木造建築事例、木材を用いた構法などを紹介する。連載第3回となる今回は、CLTの活用事例を採り上げる。 - 木の未来と可能性 ―素材・構法の発展と文化―(2):木質構造建築物の多様性と可能性
本連載では、一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYAを主宰する一級建築士の鍋野友哉氏が、近年環境に優しいなどの理由で関心を集める木材にスポットライトを当て、国内と世界における木造建築の歴史や最新の木造建築事例、木材を用いた構法などを紹介する。連載第2回となる今回は、木質材料の特性を生かした多様な空間の構築方法を採り上げる。 - “土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(1):【新連載】“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト:AIブームの潮流
ここ数年、国が旗振り役となって推進しているi-Constructionの進捗により、土木分野でのAI活用が進んでいる。本連載では、「土木学会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会」で副委員長を務める阿部雅人氏が、AIをどのように使いこなしていくかの観点から、AIと土木の現状や課題、その先の将来ビジョンについて考えていきます。連載第1回は、これまでに3度起きたAIブームを振り返ります。 - Autodesk University Japan 2019:【限定全公開】3.11復旧工事など災害対応で活躍したCIM、岩手・地方建コンの奮闘
建設コンサルタント業務を手掛ける昭和土木設計は、2014年からCIMへの取り組みを進めてきた。その取り組みの成果が橋梁設計における「3D完成形可視化モデル」だ。ドローン(UAV)を使って3D空間の計測データを取得。このデータに基づき3Dの地形モデルを作成し、3次元の設計モデルと連携・統合することで、関係者間の情報共有の精度を高めた。 - Autodesk University Japan 2019:「CIM導入には社内の“パラダイムシフト”が必須」、独自の資格制度など八千代エンジが説く
「Autodesk University Japan 2019」の中から、総合建設コンサルタント・八千代エンジニヤリングのセッションをレポートする。同社は、2015年から全社を挙げて、BIM/CIM推進に取り組んできた。講演では、CIM推進室 室長 藤澤泰雄氏がこれまでの歩みを振り返るとともに、CIMの導入に舵を切った5つの理由を示し、目標とすべき技術者像について説いた。