ドローンは災害対応にどう役立つか?台風19号と福島県沖地震で見えてきた課題と可能性:Japan Drone2021(2/3 ページ)
2019年の令和元年台風第19号と2021年2月の福島県沖地震時に、福島県南相馬市とテラ・ラボがどのように連携し、災害対応にあたったのかを、南相馬市 市長の門馬和夫氏と、中部大学発ドローンベンチャー企業テラ・ラボ 代表取締役の松浦孝英氏(テラ・ラボ代表取締役)が「Japan Drone2021」のシンポジウムで報告した。両者の説明では、ヘリコプターの弱点を補い、非常時にこそ活躍の場が広がるドローンの災害対応での有効性を提言した。
「大切にしたのはタイムライン」。迅速な情報共有を可能にしたクラウドシステム
6事業者がまず着手したのは、広域災害対策情報システムの構築だった。5つのクラウドシステムを立ち上げ、アプリケーション化し、災害対策本部の意思決定に役立てる情報の提供システムを目指した。
- 5つのクラウドシステム
- 広域ドローン空撮動画共有システムの構築
- 局所映像Webコンテンツ化(情報収集)
- 写真測量技術を活用した被災箇所とGISデータ化
- LiDARによる土砂流出箇所の断面
- LiDARによる点群データのクラウドGISデータ化
「システム構築にあたって、最も大切にしたのはタイムライン」と口にした松浦氏の言葉通り、現地での調査から情報提供までは迅速に進んだ。空撮は2019年10月17日9時に始まり、夕方の16時まで続いた。撮影後の1時間後には、映像データを集約して3次元データの簡易解析をして、さらに1時間が経過したころには映像データのクラウドへのアップロードを開始。同時に高度な3次元解析も実施した。
解析結果はその日のうちにWebアプリケーション化し、順次公開。翌18日には災害対策本部に情報を提供している。「映像を意思決定に紐(ひも)づけるためには、情報を集めてトリアージ=優先順位を付け、災害対策本部の議論にかけなければならない。そのためには、夜通しでの情報解析が必要なこともある」と松浦氏は述懐した。
依頼からわずか3日での情報提供に門馬市長は驚いたという。情報は早速、河川の決壊状況の把握に使用した。「当時、市内の主要河川が13カ所ほど氾濫していた。空撮映像には下流までの水の流れがはっきりと映し出されており、決壊箇所からの水の流れを確認することができた」(門馬市長)。
また、情報は住民の意思決定にも役立った。山間部の土砂崩れ現場近くに住む住民から、自宅に戻りたいのとの強い要望があったが、ドローンで撮影した被災現場の映像を見せることでようやく崩落の危険性を理解してもらい、帰宅を思いとどまってもらった。
ヘリコプターによる調査の限界、防災協定でドローン活用の可能性が広がる
セミナーは次に2021年2月13日深夜に起き、最大震度6強を観測した福島県沖地震での対応に話題が移った。このときもテラ・ラボは南相馬市で迅速に災害調査をしている。
愛知県で地震の報を聞いた松浦氏とテラ・ラボは、今回も迅速な初動をみせた。翌2月14日朝6時にヘリコプターをチャーターし、栃木県の飛行場を経由して、12時には現地での調査を始めている。
空撮は南北にフライトしながら繰り返し、撮影後は現地に着陸できる場所を確保できなかったため、福島空港に向かい到着したのが15時。1時間後の16時には一部テレビ局に情報を提供し、17時からはクラウド解析に取り掛かり、日付が変わる24時には南相馬市へ空撮データを開示した。翌日の2月15日9時に、南相馬市役所災害対策本部へ報告し、市役所内の各部局と報道関係者にも情報を公表した。
福島県沖地震の現地調査はドローンではなく、ヘリコプターで行われた。そのことについて松浦氏は4つの課題があるとした。
- ヘリコプター調査の4つの課題
- チャーターできない可能性がある(機体不足)
- パイロットを確保できない可能性がある(パイロット不足)
- 遠距離ほど給油を行う必要がある(飛行距離、拠点の課題)
- 離着陸場の確保に課題がある(着陸後の移動距離)
また、災害時の各機関でのヘリコプター運用は、話題性のある場所に集中するため、情報を共有して災害全容を把握することには向かず、ドローンよりも高く飛び振動が大きいことから、高画質の画像を撮影しづらいなど、調査を行う際の難点を指摘した。
門馬市長が「以前は、地震でドローン調査をお願いする発想自体が無かった」と話す通り、今回の災害調査と情報提供は、テラ・ラボが自主的に行ったものだった。ただ、撮影された映像を見て、「市域を越え、広域的な被害状況を確認できたことは有益だった」と強調し、最終的に集積した情報は、近隣の市や高速道路を管理するNEXCO東日本とも共有したことを説明した。
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