建築事故で損害賠償請求が工事発注者にも及ぶ場合も、リスクを最小限にするには?:ファシリティマネジメント フォーラム 2021(3/3 ページ)
建築プロジェクトで昨今、建築偽装問題や事業トラブルなどが頻発していおり、その際にば発注者にも責任とリスクが生じる。リスクを最小にして長期的に損失を減らすには、“プロジェクトマネジメント”が必須となる。ファシリティマネジメント フォーラム 2021の「発注者のための建築プロジェクトマネジメント超入門」と題する講演では、2人の登壇者が弁護士とプロジェクトマネジメント(PM)実務者のそれぞれの立場から、裁判例からみる発注者の責任及びリスクと建築プロジェクトマネジメントの果たす役割を解説した。
複雑化する建築プロジェクト、成功には“プロジェクトマネジメント”が必須
建築事業のプロジェクトは、「建物を作る」という意思決定がスタート地点となる。建物は、1日では完成しないので、意思決定の後、用途の設定やマーケット調査、事業収支の計画や法令の確認などが続く。これらを経て、「企業体として建築プロジェクトを行う」という事業決定がなされる。
事業決定は一つのマイルストーンであり、以降は土地の取得や融資の実行といったものがプロジェクトの費用として発生する。
「そういう意味では、事業決定前はプロジェクトの開始前と言い換えられる。事業の実現性をこの時点で高く精査しておくことがプロジェクト推進における最大のリスクヘッジであり、プロジェクトマネジャーの手腕が問われるところ」(池村氏)。
さらに、「プロジェクトマネジャーはただの窓口ではない」とし、プロジェクト事業の期間中を通じて変動リスクなどに対する一貫したマネジメントやリスク削減を行うプロジェクトマネジャーの役割を説いた。
池村氏は、プロジェクトマネジメントの役割で以下の5点を挙げた。
- 事業を描くこと
- 事業を成立させること
- 事業体制、スキームを構築すること
- 事業を推進すること
- 事業リスクを最小限に抑え、発生した課題を解決すること
これらは、発注担当者や設計者、施工者が行ってきたことと混同されることもある。しかし、プロジェクトマネジメントは「再現性」の点で大きく異なる。池村氏の言葉では、プロジェクトマネジメントは理論・手法・体系に基づくテクニックであり、理論や手法を身に着ければ誰にでも類似の結果を導き出せるとする。
冒頭で触れたように、建築プロジェクトでは発注者にも責任とリスクがある。リスクをいかに最小にし、長期的な損失を減らすかは、丁寧な発注とともにマネジメントが外せない。池村氏は、プロジェクトマネジメントは個人に依存するスキルではなく、再現性によって組織力・企業力を高めるのに役立つと語り、まとめに代えた。
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