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発注者のニーズを知り、要求条件をまとめる(上)−利用者満足度調査・POEとは−いまさら聞けない建築関係者のためのFM入門(11)(1/3 ページ)

本連載は、「建築関係者のためのFM入門」と題し、日本ファシリティマネジメント協会 専務理事 成田一郎氏が、ファシリティマネジメント(FM)に関して多角的な視点から、建築関係者に向けてFMの現在地と未来について明らかにしていく。今回は、FMを実践する上では欠かせない手法「POE」について、その重要性を説く。

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POEをご存じですか?

 POEという言葉をご存じだろうか?聞いたことはあるが、経験したことがない方は実際に多いのではないだろうか。POEは、ファシリティマネジメント(FM)を実践する上では欠かせない手法である。

 POEとは、「PreまたはPost Occupancy Evaluation」の略で、建物をつくる前や後の居住者評価、利用者満足度評価などと訳されている。しかし、日本では簡単な満足度調査ぐらいは実施するところも増えてきたが、ファシリティマネジャーが定期的に社員の満足度調査を実施したり、建物の新築や移転の前・後に利用者の満足度調査を実施して、評価したりすることは少なく、まだまだ一般化しているとはいえない。

 古い話になるが30年以上前に、FMの調査で訪米し、銀行や大学を訪問した際、「POEの結果、このようにした」という話を方々で聞いた。当時、POEという言葉は新鮮で、ましてどこに行ってもその話が話題に上るので、私は本当にPOEを実施しているのか疑問に思い、訪問先で何度かPOEについて聞いて回った。

 それが気になったのか、通訳の方から、「アメリカではFMを実践している企業は、POEを当たり前に実践している」という趣旨の話をいただいた。すると、その会話を聞いていたプレゼンターである銀行のファシリティマネジャーには逆に質問を返された。「日本ではPOEは実施していないのか」「ファシリティの計画やプロジェクトを実施するとき、利用者の声を聞かないのか」「聞かないで要求条件をどのように作るのか」「設計者は発注者のニーズを聞かずになぜ設計できるのか」「建物完成後、要求条件通りにできているかを評価しないのか」などの質問を矢継ぎ早にされたのである。

 私は、「竣工検査はしている」などのピントはずれの答えをしながら、なんとかその場をしのいだが、彼らが設計前に利用者の声に十分耳を傾けて、設計の与条件として整理するのが当然のプロセスとして行っていることに感激するとともに、POEの必要性、設計与条件の作成(プログラミングまたはブリーフィング)の必要性を強く感じた。

 帰国後、私はPOEをいかに実践するか、どのような方法が良いのか、そしてその内容を受けた設計与条件をいかにつくるかということに注力してきた。


訪米で実感した利用者のニーズを聞き取るPOEの重要性 Photo by Pixabay

利用者(ユーザー)側の視点から見ること、話を聞くこと

 FMを実践する上で大切なことは、ファシリティを利用者(ユーザー)側の視点からも見ることである。しかし、サプライヤー側は、どうしても供給者側の視点で見てしまい、供給者側の視点からFMを語っている場合が多い。同じファシリティを捉えるのでも、どちらの視点から見ているかで、結果としては非常に大きな違いになってくる。

 それでは、どうすればよいのだろうか。一つの方法は、ユーザーの声を徹底的に聞くことである。それはつまり、利用者の真のニーズを知ることである。利用者の正確なニーズを知ることなしに、的を射たソリューションは無いと考えた方がよい。ソリューションは無限にある。真のニーズを知らずして、ソリューションを探すことは、暗闇で見えない標的に向かって銃を乱射しているのに等しい。

 世間一般でも、人(ユーザー)の話を聞くことは大切だと言うが、それが現実ではなかなかできない。上司が部下の話を聞くなどと言いながら、上司が自分の意見だけを投げかけている例を挙げるまでもなく、多くの人は聞くことより、話すことの方が得意なようである。はじめは黙って聞いていても、相手の話に反応して、つい口を挟んでしまう。ちなみに、結婚されている方で、奥様(あるいはご主人)の話を10分以上も反論せずにじっくり聞いたことがおありだろうか。単純に聞くといってもそう簡単なことではない。しかし、現場のことは現場にいる方が、そこでの課題は一番よく知っている。多くのノウハウもお持ちなのである。


利用者の声はアイデアの宝庫

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