積水ハウスが目指す「急性疾患の発症者を自動で感知し通報する家」、鍵は人体の異常を判断するアルゴリズム:産業動向(2/2 ページ)
積水ハウスは、高齢化の波を受け、住まいで脳卒中と心筋梗塞により急死する人が増えていることなどを踏まえ、住宅で急性疾患を発症した人の早期発見と救急通報を実現するシステム「HED-Net」の開発を進めている。このほど、実際に住人が住む30棟の新築戸建て住宅で、HED-Netの性能を検証するパイロットプロジェクトがスタートした。
HED-Netは、「身体」と「精神」にノンストレス
――HED-Netの開発でこだわっているポイントについて
石井氏 HED-Netの開発では、利用者の身体と精神に負荷をかけないことにこだわっている。心拍数と呼吸数の計測に、一般的な非接触型のセンサーを使用したのもその一つだ。心拍数と呼吸数の測定はウェアラブル端末を使えば容易だが、寝る時に煩(わず)わしく、装着に抵抗を感じる方も少なくない。非接触型のセンサーを利用するメリットには、自身に事故が起きると思っていない方や健康状態が良好な方も見守れる利点もある。
しかし、非接触型のセンサーで心拍数と呼吸数を正確にセンシングするのは簡単ではない。非接触型のセンサーは、胸の動きを感知することで、対象者の呼吸数と心拍数を計測するが、住宅内には洗濯機やエアコンなどの振動と、建物自体の微弱な揺れがあるため、非接触型のセンサーで正確に胸の動きを検知するのは困難だ。対象者の体形や姿勢、服装、掛けている布団の厚みでも、非接触型のセンサーで得られるデータが変わるという問題もある。
解決策として、非接触型のセンサーで取得したデータから、正しい呼吸数と心拍数を抽出するアルゴリズムの開発を慶應義塾大学 理工学部 教授の大槻知明氏とともに進めている。
また、非接触型のセンサーで得られたデータを分析し、急性疾患の発症による呼吸数と心拍数の異常かを判断するアルゴリズムの開発に積水ハウスが独自で取り組んでいる。独自開発のアルゴリズムは、住民の屋内での日常行動を考慮に入れている。一例を挙げると、寝室に設置したセンサーが、対象者が寝室から出た場合に、呼吸数と心拍数をゼロと検知しても、異常と誤認しないような役割をアルゴリズムが果たす。
――――プロジェクトの目的と「HED-Net」の今後の展望について
石井氏 今回のパイロットプロジェクトは、非接触型のセンサーと開発を進めるアルゴリズムの性能や課題などを人が実際に生活する住宅で確かめることを目的にしている。プロジェクトに参加する30世帯は、30〜60代の男女で構成されているため、年齢別に、非接触型のセンサーとアルゴリズムの精度を確認できる見通しだ。
パイロットプロジェクトの結果によるが、2022年に次のステップに移行する予定で、内容は準備が整い次第発表する。HED-Netに関する将来の展望としては、新築の戸建て住宅だけでなく、積水ハウスが展開する賃貸住宅「シャーメゾン」の単身赴任者向けサービスとして提供することを見込んでいる。また、ヒートショック現象などで、高齢者の死亡事故が多い浴室用のHED-Netを開発することも視野に入れている。
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