FMにBIMを活用する(その1)「国土交通省 建築BIM推進会議から考える」:いまさら聞けない建築関係者のためのFM入門(7)(3/3 ページ)
本連載は、「建築関係者のためのFM入門」と題し、日本ファシリティマネジメント協会 専務理事 成田一郎氏が、ファシリティマネジメントに関して多角的な視点から、建築関係者に向けてFMの現在地と未来について明らかにしていく。今回は、FMにBIMを活用するをテーマに、国交省「建築BIM推進会議」の動向から考察した。
◆FMの視点ではBIMをどのように捉えるべきか
2020年6月には、ガイドラインに対応したBIM導入の効果検証や課題分析を行う目的で、補助金事業「BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業」として公募(2020年4月27日〜6月1日)し、8件の「採択事業」と、14件の「連携事業」を選定し、実際の案件で適用を進めている。
本ガイドラインでは、建築BIMを効果的に進めるための「ライフサイクルコンサルティング」という新しい職能も定義付け、ファシリティマネジメント(FM)的視点に立ったライフサイクル全体の生産性向上を目指している。これらを実施する「ライフサイクルコンサルタント」は、設計事務所やゼネコン出身者が担うと考えられるが、発注者やユーザーの立場に立ったFM専門家からも多く輩出することを期待したい。
そして、ここで重要なことは、企画・設計・施工・維持管理、それぞれの関連業者に限定したBIMにならないようにすることである。主体(顧客)は、発注者であり、ユーザーであるということを忘れてはならない。どうしても業者側は、プロでありパワーも知見もあるため、業者側の視点で物事が進みがちになってしまう。
さらに始末が悪いのは、自分のところだけ便利なように独自のシステムを構築して、それを差別化技術と称する風潮があることである。とくに日本の場合、システム開発や技術開発、商品開発には、その傾向が顕著に表れる。
駄じゃれではないが、これからの時代グローバルで生きていくには、“競争”より“共創”が欠かせない。ライフサイクルを通して考えるFMの基本思想に基づき、企画・設計・施工・維持管理を川上から川下という上から目線の一方通行で考えるのではなく、ライフサイクルを通して、PDCAのマネジメント的意識で捉え、スパイラルアップをしていくという発想が必要なのである。
それでも多くの建築関係者は、始まりは、企画・設計……というプロセスを思い浮かべるだろうが、運営維持→評価→改善→FM戦略・計画→プロジェクト管理→運営維持……というFMの標準業務サイクルで、スパイラルアップしていくイメージを持ってもらいたい。これらを、建築の設計者などにご理解いただくためには、これまでのように、業種間の壁や、企画・設計・施工・維持管理の間に壁を作るのでなく、スパイラルにつながりライフサイクルを通してBIMを利用するというイメージで、企画や設計時点から運営維持の情報にも耳を傾け、業務を前倒で考え、全体最適を考えるいわゆる“フロントローディング”的な発想が必要なのである。
米国の建築家登録試験「ARE(Architect Registration Examination)」は、1997年より試験はPCで行う「CBT(Computer Based Testing)」化されている。設計製図はCADを使用し、採点もコンピュータにより自動採点となっている。今回のコロナ禍でも、日本のデジタル化の遅れが露見したように、ますますグローバルな視点で、建築界も思考していかなければならない。
今まで日本の建築生産現場は独特で、世界的に見ても極めて特異である。しかし、それにあまり気が付いていないのか、安住しているのではないだろうか。日本のゼネコンの施工技術は高く、一般に発注者・設計者・施工者の関係も良好といえるし、相互の関係は法的契約で縛られるというより、お互いの信頼関係で成り立ってきている。それのどこがいけないのかといわれるかもしれない。
しかしグローバル化し、異文化の人たちとビジネスをすると、今までの阿吽(あうん)の呼吸は通じない。まず、彼らと言葉は通じない。彼らは、明文化し、システム化し、契約主義でビジネスを進めていく。この辺が島国日本のドメスティックでモノカルチャーに慣れてきた人々には、なかなかその変化に対応できず、あるいは波に乗れず、今回のようなBIMをはじめとするデジタル化にも乗り遅れてきた要因があるのではないだろうか。
中小企業のゼネコンや一部の設計事務所の方々は、国内の仕事しか受けないから関係ないと考えるかもしれない。しかし、BIMは仕事の仕方、進め方自体を変え、意匠・構造・設備に横串を刺し、あるいは融合させ、否応なくコミュニケーションを向上させて、効率化・高品質化・省力化など、さまざまなメリットを生み出していく。生産現場だけでなく、まして自分だけが便利になる自分本位の考えではなく、FM的視点に立ち、建物のライフサイクル(生涯)を通して、BIMを大いに活用する発想に立っていただきたいものである。
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