【第9回】「設計BIM全社移行を実現する社内教育の秘訣」(BIM啓蒙期・前編):BIMで建設業界に革命を!10兆円企業を目指す大和ハウス工業のメソッドに学ぶ(9)(3/3 ページ)
当社は、設計BIMの全社移行を進めている。意匠・構造は、既に2020年の上期で80%近くまで移行している。しかし、これまで何の問題もなく順風満帆だったわけではない。当社がBIMに取り組むと決めたのは2017年の4月であり、それまでは、2011年から6年ほどが地道な「BIM啓蒙期」だった。今回は、当社のBIM啓蒙期にどのような社内教育を行ってきたのかを、実際の研修の事例を行いて、前後編で詳(つまび)らかにしていく。次回以降は、2017年以降のBIM導入期において全社BIMを実現する社内教育とどう違うのかを解説する。
デザインするツールとしてのRevitをマイスターも理解
短期間でデザインを考慮しながら設計を行うことができるかという、実験的な意味も兼ねて取り組んだRevitデザイン研修であったので、多少心配もしていたが、実際にはとても楽しいものであった。日ごろからRevitを使っている設計者でも、デザインマイスターの指導が入るという点で、新しい気付きを得ることがでたようである。
Revitの機能制限やファミリ不足がデザインに影響を与えないとは思っていなかったが、工夫次第で、それを乗り越え、魅力的な建物のデザインを作ることを可能にすることが再確認された。
デザイン研修による成果は、研修生の成長だけではなかった。研修のデザイン指導に当たったデザインマイスターにとっても、短時間でも、建物をデザインするツールとしてRevitを理解してもらったことは大きい。BIM研修は、社員で行うのが当社のスタイルだと言ったが、講師の側でも、研修を自分で行うことで、研修資料の作成や次の研修へ向けた改善点などを確認できることが、重要だということである。
「Autodesk Revit公式トレーニングガイド」の刊行
2014年に発刊した「Autodesk Revit公式トレーニングガイド」は、これらの経験をもとに執筆した。1泊2日の短い研修では、多くを伝えることができない。表面的なRevitのテクニックだけでなく、Revitの思想ともいえる基本的な概念も知ってほしいとの思いから本書を著した。当時は、まだRevitの教則本が出回っていなかったこともあり、自ら本を書くことを選んだ。
本書の特徴は、AutoCADなどの2次元CADユーザーが、Revitに取り組むことができるように、Revitの2次元機能から説明をしていることと、Revitの情報管理として重要な共有パラメータなどのパラメータについての説明をしていることである。
後に新入社員研修などにも活用し、社内研修の補助読本にもなった。今でも時々、「この本を読んでRevitを覚えた」と言ってくれる方がいるのは、喜ばしい限りである。
何度かこの本の続編を書こうと構想を練ったが、機会に恵まれず今に至っている。下記は結局、陽の目を見ることの無かった続編の「ファミリ作成編」である。
実は、2020年の冬に、同じくAutodeskの公認でRevitトレーニングガイドの“改訂版”をダイスネクストの石川達也氏と共著で出版する予定である。ダイスネクストはCAD/BIM/DTP業務を行っている当社の子会社で、石川氏は当社のコンポーネントファミリの管理と作成を担当している方である。私は、Revitの設計プロセスやBIM 360の説明を担当しているが、主な部分は石川氏に担ってもらった。
今回は2次元CADを意識することなく著述しており、改訂版といっても、内容は一新している。また、実務活用を前提に、応用技術の「BooT.one」にも対応していることが特徴である。期待していただきたい。
次回のBIM啓蒙期・後編では、BIM啓蒙期のもう一つの特徴的な研修について紹介してゆく(2020年10月16日10:00公開予定)。
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