BIMモデルで鉄骨生産のデジタル承認、手間を6割削減する大林組の新ワークフロー:導入事例
大林組は、構造設計BIMモデルを複数の主要な鉄骨BIMソフトと連携させ、工事監理者や施工者がデジタルデータのまま承認する「デジタル承認」を実用化した。これまでの紙ベースによる承認フローに比べ、約6割の手間削減が見込まれる。
大林組は、BIMモデルを基盤情報として位置付け、構造設計分野でも、構造設計図書の一般図類や断面リストを構造設計BIMモデルから出力するなど、BIMモデルを主体としたワークフローを標準化させている。このほど、構造設計BIMモデルのデジタルデータを複数の鉄骨BIMソフトに連携する手法を確立し、鉄骨BIMソフトで作成した鉄骨詳細BIMモデルを工事監理者や施工者がデジタルデータのまま承認する「デジタル承認」を実用化させた。
従来の鉄骨工事では、構造設計のデジタル情報があるにもかかわらず、多くの鉄骨製作会社は、構造設計図書から構造情報を読み取り、鉄骨BIMソフトを用いて、通り芯から部材の登録や配置、仕口や継手などの詳細化までを手作業で行い、鉄骨BIMモデルと鉄骨製作図を別途作成していた。
また、工事監理者や施工者は、鉄骨の納まりや工種間の整合などをBIMモデル上で確認していたが、主要な情報については、BIMモデルから出力された鉄骨製作図を各種図面類と目視で照合していた。
こうしたプロセスでは、各段階で人的ミスが起き、鉄骨製作会社でもBIMモデルと鉄骨製作図を並行して整備する際に生じる図面とモデルの不整合や作業量の増大、工事監理者や施工者にとっては膨大な量の鉄骨製作図を確認するため、作業負荷が掛かかり効率化の妨げとなっていた。
今回大林組が確率した手法は、図面を介さず、主要な鉄骨BIMソフトへ構造設計情報を送り、鉄骨BIMモデルをデジタルデータのまま承認する。これにより、鉄骨製作会社の鉄骨BIMモデルを作成する労力が大幅に削減され、工事監理者や施工者にとっても、全部材の整合を瞬時にくまなく判定し、一連の過程で効率化を図りながら、ケアレスミスの無い結果を残すことが実現した。
新手法では、構造設計BIMモデルと鉄骨BIMソフトの間で連携ルールとパラメータの共通化を図っているため、各種鉄骨BIMソフトが構造設計のデジタルデータを自動的に読み込み再現する。鉄骨製作会社が運用する鉄骨BIMソフトは多数存在するが、新しい手法では特定の鉄骨BIMソフトに縛られないため、どの鉄骨製作会社に対しても構造設計情報を伝えられる。
扱うデジタルデータは、通り芯、部材(断面・仕様)とその配置だけでなく、継手、大梁(おおばり)のハンチ、スラブといった構造情報、部材が有する仕上げ情報など。鉄骨BIMモデルの詳細化に着手する前は、あらかじめ鉄骨の納まり基準やモデリングの要領を決めておくことで、鉄骨製作会社のルールに沿った精度の高い鉄骨BIMモデルが短時間で構築され、早期に鉄骨工事関連の検討に移れる。
また、従来の鉄骨BIMモデルの形態情報を用いた確認に加え、鉄骨BIMモデルが有する情報(部材断面・配置・仕様・仕口・継手・付帯類など)は、図面を用いることなく、デジタルデータそのものを承認する。鉄骨BIMソフトのフィルタリング機能では、属性情報を色の違いで識別して判定する他、構造設計者が管理する構造設計データベースとの照合及び各種基準図への適合をExcelで評価し、こうした判定結果を組み合わせて承認すべき情報の正確さを確保する。
鉄骨BIMソフトへのデータ連携とデジタル承認を導入することで、従来の手法と比較して一連の作業に要する労力が約60%削減するという。既に複数のプロジェクトで適用しており、設計から施工、鉄骨の製造までを一元管理することで、高品質化と効率化がもたらされることが確認できたため、今後は鉄骨工事のあるプロジェクトで標準運用していく。
さらに大林組は、鉄骨工事で蓄積した知見を基に、他の構造種別へとデジタル承認技術を拡張させるべく、本社デジタル推進室iPDセンター内に構造設計と建築生産分野の技術者から成る「構造専門チーム」を発足した。構造専門チームでは、鉄骨工事のデータ連携とデジタル承認領域の拡大を図るとともに、構造躯体のうち鉄筋コンクリート構造やプレキャストコンクリート構造などの鉄筋工事に関わるデータ連携、BIMモデルの承認についても新たな技術を開発することで、実用化領域を拡張し、さらなる高品質化と高効率化を目指す。
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