東大、多種類/短時間データから将来予測する数理的手法を開発:産業動向
東京大学と構造計画研究所の共同チームは、AIによる予測技術では困難であった、多種類かつ短時間のデータから将来を予測する数理的手法の開発を発表した。自然災害をはじめとしたさまざまな予測に応用する見通しだ。
東京大学生産技術研究所と構造計画研究所の共同チームは、2020年1月21日、多種類の変数が混在する短時間の観測データから、力学系理論にもとづきターゲットとなる変数を高精度に予測する手法を開発したことを明らかにした。
近年、人工知能(AI)による予測技術が向上する一方、ディープラーニング(深層学習)を時系列データの予測に適用する場合、計算時間やネットワークの設計に時間を要していた。また、自然災害分野では長時間の時系列データの入手は困難であり、少量のデータしか得られない場合は予測精度に課題があった。AIによる予測は、多種類の変数がある場合にどの変数を採用するかによって精度が左右されるため、変数の選択に多大な時間を要していた。
同手法は、観測データがその背後に存在する決定論的な法則から生成されると仮定し、「埋め込み」と呼ばれる数理的手法によって観測データだけから元の法則の特性を再構成し予測する。さらに、異なった複数の埋め込みによる予測結果を効果的に組み合わせることで、少量のデータや多種類の変数があるデータにおいても高精度に予測できるという。
さらに、事前に変数選択やネットワークの設計などの作業を行うことなく、短時間の観測データしか得られない場合でも良好な予測を行うことができる。気象の数理モデルのほか、実際の河川水位データを使い同手法の有効性を確認した。
今回の手法は、洪水などの自然災害をはじめ、医学、エネルギー、製造業など幅広い分野への応用が期待されているという。研究チームの成果は東京大学と構造計画研究所から特許申請後、英国の総合科学雑誌「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載された。
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