AIを用いてAMDによる制震を最適化、大林組らが新手法を開発:制震
搭載された重りを能動的に動かすことで対象構造物の振動を低減する装置「アクティブ・マスダンパー(AMD)」を効果的に機能させる新手法が誕生した。大林組とLaboro.AIが共同で開発したAIを用いた手法がそれだ。地震による建物の揺れを効率的に抑えられるテクノロジーとして業界で関心を集めている。
大林組は2019年12月11日、Laboro.AIと共同で、AI技術の1つである強化学習(理論に依存せず試行錯誤により最適な行動を学習させる方法)を制震装置「アクティブ・マスダンパー(AMD)」に適用する手法を開発したことを発表。既に、大林組技術研究所本館内のブリッジに設置されているAMDに試験適用して高い制振効果が得られることを確かめているという。
最初AMDはランダムに力を放出
ブリッジ中央部にAMDを設置すると、人の歩行による揺れを感知した際に、重りに上下方向の力を与え、ブリッジの揺れを抑える装置として機能する。重りに与える力の大きさは、ブリッジの揺れ方に応じて最も揺れを抑えられるように、コンピュータが定期的にセンサーの値を用いて計算する制御則と呼ばれる計算方法で決められる。
従来は理論に基づき、制御則のパラメーターや制御手法を決定していたが、実際には、装置の能力やさまざまな揺れのパターンなどに合わせられる最適な制御手法が明確になっていなかったという。
今回、両社が共同で開発した手法は、ブリッジのAMDに強化学習を適用することで、装置の能力や実際の環境などに応じて振動をコントロールする。強化学習は従来の理論に基づく方法とは異なり、試行錯誤を重ねることで力の出し方を学習。最初はランダムに力を出すが、ブリッジの揺れが抑えられた場合の力の出し方を学ぶことで、徐々にブリッジの揺れを抑えられるようになる。
この試行錯誤はコンピュータで実際のブリッジの揺れをシミュレーションすることで行うが、シミュレーションの段階で装置の能力や実際の環境などを組み込み学習させる。そのため、従来の理論に基づく方法を適用した場合よりも、実際の環境に適応した力を出せるようになり、結果として、高い制振効果を得られるという。
両社は、AMDを使わないケースや従来の理論を用いたケース、強化学習のケースの違いについて検証した。ブリッジの中央部で踵を持ち上げて下ろす踵加振と、ブリッジの端から端までを人が歩いて往復する歩行加振をそれぞれのケースで実施。グラフにより比較した結果、踵加振・歩行加振の両方で、強化学習の結果が従来の理論より優れた値を示した。
AMDは建物の頂部に設置した重りを水平方向に力を与えて動かすことで、地震や風による高層建物の揺れを抑えられる。こういった特徴を生かし、今後、大林組は、建物頂部のAMDに強化学習を適用するための開発を進め、将来の実用化を目指す。
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