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インタビュー

AirbnbやLINEのオフィスを手掛けた設計事務所が「食堂」を運営する理由――。“細胞からデザインする”働き方改革Architecture & Interior Design alternatives―Vol.2(3/4 ページ)

ここ最近では2019年4月1日に施行された「働き方改革関連法」以降、国内の企業でも、テレワークやフリーアドレス制、ABW(Activity Based Working)など、働き方そのものや働く場所に変化の兆しが見られる。建築設計事務所「SUPPOSE DESIGN OFFICE」は、東京・代々木上原の事務所に誰もが足を運べ、多忙なワーカーの食生活を改善する「社食堂」を併設している。LINEやAirbnbなど、先進的なオフィス空間の設計も手掛けている設計事務所が考える働き方改革のアプローチをインタビューから探った。

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企業が掲げるビジョンにデザインで応える

 或る一時期、JINSは全国展開していくときに、升目什器や白い内装で内装を統一させ、いかに多店舗展開を効率的に進めるかが主眼が置かれていた。吉田氏が手掛けることになった店舗では、そのキーともなる全国展開に向けて、アイコン化されるデザインが求められた。これまでの仕事ではあまり無かった「企業が掲げるビジョンにデザインで応える」ことが、この時点から設計業務の軸になった。

 完成した店舗では、標本箱を見立てた陳列棚に、メガネ屋で必須のミラーと、キービジュアルを入れ、棚の下から在庫をすぐ補充できるように効率性にも配慮した。こだわった点は、「メガネ店は、商品を下に置くので、アパレルショップのように上部空間が活用しづらい。そのため、メガネという小さな商品が大量に置かれる場所に、リズムを生む梁(はり)を設け、いくつかの部屋を作る感覚イメージで設計した。(ファサードの)サインも大きくし、店内も赤いカラーのワンポイントを置いた。建築や内装に限定せず、空間の細やかな部分にも介入する立ち位置を、この時から明確にした」。このタイプのJINSショップはその後、期間店と常設店で、デザインコードは守りつつも、それぞれに天井や柱などは若干意匠を変更して30店までに拡大した。


メガネ店ではあまり使うことのない天井空間をデザイン的に利用した「JINS 原宿店」

“細胞からデザインする”をコンセプトに掲げた食堂

 東京の事務所については、最初は2008年東京都渋谷区富ヶ谷に開設し、2014年には同区桜丘町へ移転。その後、社員が増え、手狭になったこともあり、新しい物件を探して、大山町で今の物件に出会ったのを機に即決。併設している2017年4月にオープンした食堂は、初めからクリエイティブに働くための食堂を作る目的で設けた。

 食堂の運営は、外部の運営業者を入れずにSUPPOSE DESIGN OFFICEが自前で運営。料理自体も、“おかん料理”をテーマにシェフが栄養バランスを考えて作っている。食事どきにはそれぞれのスタッフに注文を取り、長テーブルに並べて一緒に食事を取っている。自然とコミュニケーションする回数が増え、スタッフ間の距離が縮まったという。


「SUPPOSE DESIGN OFFICE」の東京オフィス Photo by Takuya Murata

 社食堂の意図について吉田氏は、「“細胞からデザインする”が社食堂のコンセプト。設計事務所は大半が、長時間労働、少ない休み、安月給みたいな過酷な環境がデフォルトになっているケースが少なくない。コンビニエンスストアで買って来て、自席のモニター前で菓子パンやカップラーメンで済ませてしまうことが常態化している」。

 しかし、「健康で良い感情を持って仕事に向かわなければ、新しい価値を創造することなどできないはず。設計の仕事は、技術だけでなく、細かい気遣いや気配りも大事。食事が原料となって細胞が形成されていくわけで、コンビニ弁当ばかり食べているということは、そのコンビニ弁当が原料になること。同じ釜の飯を食べて、健康な細胞形成を促すことが、今までに無いアイデア、良い会社をつくることにもつながるはず」。

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