AirbnbやLINEのオフィスを手掛けた設計事務所が「食堂」を運営する理由――。“細胞からデザインする”働き方改革:Architecture & Interior Design alternatives―Vol.2(4/4 ページ)
ここ最近では2019年4月1日に施行された「働き方改革関連法」以降、国内の企業でも、テレワークやフリーアドレス制、ABW(Activity Based Working)など、働き方そのものや働く場所に変化の兆しが見られる。建築設計事務所「SUPPOSE DESIGN OFFICE」は、東京・代々木上原の事務所に誰もが足を運べ、多忙なワーカーの食生活を改善する「社食堂」を併設している。LINEやAirbnbなど、先進的なオフィス空間の設計も手掛けている設計事務所が考える働き方改革のアプローチをインタビューから探った。
普段出会わない建築家との接点が生まれる空間
社食堂は、一般にも開放している。普段は入りにくい設計事務所に、近所の人や街の人が訪れる。食事を通して、または棚一面に陳列された建築やインテリア、デザインの本を手に取ることで、同一空間にいる建築家に相談するという選択肢も生まれるかもしれない。
始めの頃は、事務所と一般の飲食スペースを間仕切りしないのは、マズいのではという声もあった。オフィス、食堂、イベントスペース、名物の山椒キーマカレーをクラウドファンディングでレトルト化した商品や書籍関係などの売り場、それぞれの場所が境界なくうつろう。「この“空間自体がポートフォリオ”で、私たちの意思表明にもなり、そこに共感を抱くクライアントから自然と新たな案件の獲得にもつながっている」(吉田氏)。
ここ最近、SUPPOSE DESIGN OFFICEでは、働き方改革の波を受け、Airbnb、LINE、東急エージェンシー、国際的な不動産グループ・グロブナーなど、数々のオフィスを手掛けることが多くなってきている。今回、初参加する「IFFT/インテリア ライフスタイル リビング」では、仮想のオフィスを展示会場に再現する。「働き方改革でオフィスの垣根が無くなってきているため、企業もどうしたらいいか分からない。既成概念を無くすようなオフィス空間を見てもらうことで、オフィスという空間で何ができるかを再考するきっかけのイベントとなれば」と話す。
メイン会場では、中央に長テーブルとイスを置き、左右に骨組みだけのラックを置く。「オフィスに必要な要素を精査し、部屋番号と連続した照明のみを残して、通常の展示会であればセグメントごとに分かれているカフェや休憩室、プレスルームが混在する“曖昧な結界”をここでも作る。形ではなく、そこでの行為によって空間が決まる新しいオフィスを提示したい」(吉田氏)。
広島オフィスには、ホテルの併設を構想
SUPPOSE DESIGN OFFICEの次のビジョンと語るのが、広島本社のオフィスにホテル機能を付け加える新プロジェクト。東京の事務所と同じ発想で、「外に開かれた設計事務所を通して、ここでの取り組みが新しい働き方を対外的に示すことにもなる。平和公園にも近いため、国内だけではなく海外からのゲストにも、広島の良さや自分たちが創る空間を知ってもらえる機会になれば」と考えているという。
最後に吉田氏は、「将来は近隣にゲストハウスも建築していく構想も持っている。都市開発や街づくりには、デベロッパーなどから依頼されないと携われないが、この場合は自分たちの事務所を拠点に、自然と周りに良い影響を広げていける。言い換えるなら、緩やかな街づくりをしていきたい。建築はクライアントワークが主なので、自分が関わっていくには、自ら率先して行動しなくては」とさらなる意欲をみせた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 30年以上にわたり「ミラノ・デザイン・ウィーク」のデザイン潮流を調査してきた集大成を披露、凸版印刷
凸版印刷は、長年にわたって現地調査を続けてきた国際的なデザインの祭典「ミラノ・デザイン・ウィーク」のデザイントレンドを解説するプレミアムセミナーを開催した。講師には、昨年まで凸版印刷顧問を務めた梅崎健氏(現・武蔵野美術大学客員講師)を招き、ミラノサローネのCMFP(カラー、マテリアル、フィニッシュ、パターン)の潮流を今となっては貴重になった多数の写真でひもとき、今後のトレンド予測についても解説した。 - オカムラが提案するオフィス家具による満足度の高い“働き方改革”
オカムラは、オフィスの働き方改革を後押しする新しい家具のカタチを「オカムラグランドフェア2018(会期2018年11月7〜9日)」で提案した。フェアでは、従業員にとって働き方改革の満足度がもたらされる機能性とデザイン性を両立させた新製品の作業スペースやイス、テーブルなどが多数展示された。 - 新居千秋氏が4室の茶室を配し、“糸”と照明色で日本建築のスケールと光を再現
オカムラデザインスペースRで、「建築家と建築以外の領域の表現者との協働」を基本コンセプトに毎年開催されてる企画展が第16回目を迎え、2018年10月17日まで開催されている。今展では、建築家・新居千秋氏(東京都市大学客員教授)を招き、「Somesthetic-身体性-」をテーマに作品を展開した。 - 「目指すはアジア・中東でのシェア確立。カギは新IoTダッシュボード」、日立ビルシステムの事業展望を聞く
日立ビルシステムは、事業の柱であるビルシステム事業で、日立のIoTプラットフォーム「Lumada(ルマーダ)」をコアに据えた新規サービスの開発に力を入れている。これまで売り上げの大半を占めていたエレベーター(EV)やエスカレーター(ES)の製造販売と保守点検だけにとどまらず、ビル設備の領域でも事業を拡大させ、昇降機とビルサービスの両輪でグローバル市場でのシェア獲得をうかがう。