既存建物が迎える改修の時代 建物価値を高める「資産戦略」【新連載】:日本オーチスが示すスマートビルへのロードマップ(1)(2/2 ページ)
今回から、日本オーチス・エレベータによるビル設備の高度化についての新連載がスタート。第1回は、建物の「保守」から「改修」へのパラダイムシフトについて解説する。建て替えではなく、既存建物を戦略的に改修し、資産価値や競争力を向上させるためのアプローチを解説する。
改修が建物の価値を高める理由
建物のオーナーや施設管理者にとって、改修の目的は設備の故障を防ぐことだけに限りません。建物の価値を維持し、将来にわたって競争力を保つための重要な先行投資でもあります。改修がもたらす主な価値には、次のようなものがあります。
- 資産としての競争力:建物は、入居者や居住者、顧客、来訪者から選ばれる存在です。信頼性が高く、利用しやすく、快適な環境を提供できる建物は、人々の期待が変化しても価値を維持しやすくなります。
- 安全性とレジリエンス:建物に求められる安全基準は時代とともに変化します。日本では特に耐震性が重要な課題です。国交省は、1981年以前の旧耐震基準で建設された建物に対し、耐震診断や耐震改修を推進しています。
- 運用性能:老朽化した設備は、維持管理にかかる負担が大きくなり、最新設備と比べて効率が低下する場合があります。改修によって、既存建物を使い続けながら、性能や効率を向上させることができます。
- 利用者の満足度:建物の価値は、利用者が日々どのように感じるかによっても左右されます。アクセシビリティーや快適性、信頼性、移動のしやすさといった要素は、建物に対する評価や満足度に大きく影響します。
- 将来への対応力:社会や利用者のニーズは常に変化しています。改修することで、建物の設計当初の前提と現在の利用環境とのギャップを埋め、将来の変化にも柔軟に対応できるようになります。
こうした要素を総合すると、改修はただの設備更新ではなく、既存建物の価値を向上させ、市場での競争力を高めるために不可欠な戦略と言えます。
建て替えではなく「再生」という選択肢
建物の「再生」というテーマは、日本にとって特に重要です。
日本には、長年にわたって供用されてきた建物やインフラが数多く存在します。一方で、人口構造の変化や地域活性化への対応、既存インフラの有効活用といった課題にも直面しています。こうした状況を考えると、老朽化した建物や設備を全て建て替えることは、現実的でもなければ、必ずしも最善の選択とも言えません。
そのため、今求められているのは、既存建物の何を改修し、いかに変化するニーズに合わせて進化させていくべきかを見極めることです。
例えば、設備の更新やアクセシビリティーの向上、省エネルギー性能の改善、あるいは設備の信頼性に問題が生じる前の予防的な処置などが挙げられます。さらに重要なのは、こうした取り組みを個別のプロジェクトとして捉えるのではなく、建物のライフサイクル全体を見据えた計画の一部として位置付けることです。
なぜなら、建物は完成した時点で価値が決まるものではないからです。
数十年前に建設されたオフィスビルであっても、その後の長い年月の中で、入居者は変わり、技術は進歩し、法規制も見直されます。働き方や建物の利用方法も変化していきます。そうした変化にどれだけ柔軟に対応できるかが、建物の価値を長期的に左右する重要な要素となります。
建物の将来を映し出す設備の役割
エレベーターやエスカレーターは、人々が日常的に利用する設備で、建物の改修がなぜ重要なのかを理解する上で分かりやすい例です。
こうした設備は、建物内の移動を支えるだけでなく、オフィスや住宅、商業施設、病院、ホテル、駅、空港などが本来の機能を果たすための基盤となっています。そのため、設備が利用できなくなったり、利用者のニーズに合わなくなったりした時に、その重要性が改めて認識されます。
さらに重要なのは、こうした設備による移動が人々の暮らしを支えているという点です。人々は移動を通じて、住まいや職場へ向かい、医療や教育などさまざまなサービスを利用し、地域社会や人とのつながりを維持しています。安全で信頼性が高く、誰もが利用しやすい移動環境があることで、人々は必要な場所やサービスを安心して利用し続けることができます。
もっとも、この考え方はエレベーターやエスカレーターだけに当てはまるものではありません。
建物の性能は、さまざまな設備が相互に連携することで成り立っています。そのため、一つの設備を改修することは、建物全体の性能や運用効率の向上につながる取り組みでもあります。
こうした視点を持つ上で参考になるのが、長年にわたり建物インフラに携わってきた企業の経験です。一例としてエレベーター業界には、建物の老朽化や利用形態の変化、そしてオーナーが設備の維持、改修、更新をどのように判断してきたかについての知見が蓄積されています。
そこから見えてくるのは、建築業界全体の大きな変化です。これまでは新しい建物を建設することが中心でした。しかし今後は、既存建物を長く活用しながら、時代の変化に合わせて進化させ、その価値を高めていくことがますます欠かせなくなっています。
建物は次のライフサイクルへ
建物の改修の在り方は、市場や建物の種類によって異なります。全ての建物に同じ対応が必要なわけではなく、改修が必ずしも設備の全面更新を意味するわけでもありません。重要なのは、「建物を長期的な視点で捉える」ことです。
建物のオーナーや施設管理者は、既存建物を単なる設備や不動産ではなく、長期的に活用していく資産として考える必要があります。そのためには、今必要な対応だけでなく、5年後、10年後、さらには数十年先を見据えながら、建物や設備がどのような役割を果たすべきかを考えることが重要になります。
日本にとって、このことは課題であると同時に大きなチャンスでもあります。
国内には多くの既存建物があります。こうした建物は単なる古い資産ではなく、これからの都市や経済活動を支える重要な基盤です。
だからこそ、その基盤を建て替えるのではなく、改修によって活用していく発想が求められています。既存建物を有効活用することで、安全性やアクセシビリティー、運用効率、信頼性、そして利用者の満足度を高めていくことができるのです。
これから重要になるのは、新しい建物を増やすことだけではありません。既存建物をどのように活用し、将来に向けて進化させていくかも、同じように欠かせません。
改修によって、人々の暮らしを支える場所を、変化する社会に適応できる状態へと進化させることができます。また、安全で信頼性が高く、誰もが利用しやすい移動環境を維持することで、人々が大切な人や場所、機会とのつながりを保ち続けることもできます。改修は、ただ建物や設備の寿命を延ばすためのものではありません。人々の暮らしと社会とのつながりを支え続ける取り組みなのです。
次回は、建設業界や施設管理業界で人手不足が深刻化する中、デジタル技術やデータの活用によって、エレベーターをはじめとする建物設備の保守や点検がどのように進化していくのかを考えます。
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