「紙とハンコ」文化から2年半でAIエージェント駆動へ 宮崎の地場ゼネコン、改革の軌跡:地場ゼネコンのDX(2/3 ページ)
社長室の会議で、全員が同じ報告を手帳に書き写す。副社長 河野一歩氏が「写経会議」と称した当時のその光景は、宮崎県の丸宮建設の日常風景だった。それから約2年半、今ではプログラマーのいない社内で、現場監督や管理部の社員がAIと対話し、業務アプリを自作している。河野氏が最初に変えたのは、社内精度でも基幹システムでもなく、自分の会議メモの共有だった。そこから会社はどう変化していったのか。
まずは休日を増やして基本給を上げる
河野氏は情報共有の基盤づくりと並行して、社内制度の見直しと採用強化にも取り組んだ。当時の丸宮建設には売上目標がなく、現場と本社の連携も弱かった。さらに、求人を出しても人が集まらなかった。いずれも後回しにできない課題だったため同時に進めたという。
まず手を付けたのが売上目標だ。入社当時、全社の目標を尋ねると、返ってきた答えは「特になし」だった。それまでは受注した工事を順にこなしていくだけだったからだ。目標を立てることに社員の反発はなく、むしろ歓迎されたという。河野氏は目標を定めると同時に、達成すれば前年以上の賞与を支給すると社員に伝えた。「目標と達成後の報酬還元は絶対にセットにするべきだ」と力説する。目標を会社の数字にとどめず、社員自身の処遇に結び付けることで、全員が同じゴールを目指せるようにした。
働き方では、2025年度に完全週休2日制を導入し、年間休日を20日近く増やして123日とした。勤怠管理もタイムカードからクラウドサービスに切り替えた。建設業に時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」への対応として、労働時間を分単位で正確に把握するためだ。
業務効率化を進めてから休日を増やすのではなく、丸宮建設はまず休日を増やし、その条件の下で仕事を組み直すという逆の順序を取った。「働き方を変えざるを得ない状況を先につくらなければ、本気で業務を見直そうとはならない。理想の状態を決めてどう実現するかを考えた方が改革は早く進む」と河野氏は語る。休日数の多さは、採用でのアピールにもつながる。
一方で、社員からは、休日が増えて残業が減れば手取り収入が下がるのではないかという不安の声も上がっていた。そこで丸宮建設では休日を増やすと同時に基本給を引き上げた。業績に応じて変動する賞与と組み合わせて報酬全体を設計し、社員の平均年収を引き上げた。評価制度も年功序列から能力給に改め、各種手当を拡充した。
これだけの制度変更にも、表立った反発はほとんどなかった。社長ら経営陣が「次の世代に会社を任せる」と決めていたことが大きい。河野氏は、改革の「主語」にも理由があったとみる。「会社都合の制度変更ではなく、皆もっと楽をしてほしい、そのための改革だと伝え続けてきた」と振り返る。
また、社員の提案を受けて、現場と本社の連携を強めるため本社に「管理部」を新設した。現場監督の書類作成などの間接業務を本社で一括して引き受ける他、安全管理や、各現場が個別に購入して重複が生じていた資機材の一元管理も担う。管理部の目標には、「現場の業務時間をどれだけ引き受けられたか」を据えた。
現場と管理部は、現場ごとに設けたチャットグループでつながっている。相談のハードルが下がり、コミュニケーションの頻度も増えた。管理部の設置による残業削減効果は、個別には集計していないが、全社の平均残業時間は、直近では10時間を下回る水準まで下がっている。
「社風」を社外からも見えるように
採用も大きな課題だった。2024年1月時点で、丸宮建設社員の平均年齢は51.0歳。技術者の約5人に1人が60代以上で、求人を出しても応募はほとんどなかった。状況を変えるため、採用強化に向けた新たな施策を打ち出した。
河野氏が「最も効果が大きかった」と話すのが、コーポレートサイトの刷新だ。「どんな経緯で当社を知ったとしても、最初に見るのはコーポレートサイトだ。採用の土台となる部分を整えた効果は絶大だった」。
以前のサイトは社屋の写真や施工内容だけを並べたページで、働く人の顔は出ていなかった。これでは会社の雰囲気がつかめない。現在のサイトには社員の顔や仕事の様子が並ぶ。ロゴも併せて刷新し、「伝統を守りながら新しい丸宮建設に向かう」というメッセージを込めた。
Instagram(インスタグラム)での発信も開始。総務部の社員が現場や社内の日常を投稿している。投稿の判断は総務部に任せており、経営層が内容を知るのは公開後だという。社長室で流しそうめんをしたり、皆ですき焼きやバーベキューを楽しんだりする雰囲気は、河野氏の入社前からあった風土だ。社外に発信するようになってから、応募者の増加にもつながった。「応募者は仕事内容だけでなく、一緒に働く人や会社の雰囲気も重視している。それはどんな業種でも同じだ」と河野氏。この他、社員の紹介で入社が決まった場合に最大30万円を支給するリファラル採用やインターンシップの受け入れも行っている。
改革後の応募者は累計130人を超えた。役員を含む社員数は2024年1月の49人から、2025年12月に62人、2026年8月には76人に増加。平均年齢は46.5歳に下がり、女性比率は11%から17%に上がった。新卒社員の採用にも効果が出ているという。
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