万博の大屋根リングを浮かび上がらせた「新しい夜」 照明設計の舞台裏:IES Illumination Awards(2/3 ページ)
北米照明学会が主催する「IES Illumination Awards」で2026年8月、万博の大屋根リングが屋外照明デザイン部門の「Award of Excellence」を受賞した。この他、パナソニック エレクトリックワークスが照明計画に携わった3件が「Award of Merit」に選ばれた。照明計画を手掛けたパナソニック エレクトリックワークスの担当者に、設計の狙いや実現までの工夫を聞いた。
「ノモの国」、一般照明用の制御で32シーンを演出
パナソニック エレクトリックワークス ライティング事業部 エンジニアリングセンター プロフェッショナルエンジニアリング部 環境演出ソリューション推進課 先崎綾華氏 提供:パナソニック エレクトリックワークス
大屋根リングと同じ大阪・関西万博の建築で「Award of Merit」を受賞したのが、パナソニックグループパビリオン「ノモの国」の照明計画だ。「解き放て。こころと からだと じぶんと せかい。」をコンセプトとする子ども向けの体験型パビリオンで、4つの体験ゾーンと展示エリア「大地」で構成された。設計・施工は乃村工藝社が担った。
パナソニック エレクトリックワークスは、映像演出を中心とするZONE01とZONE04を除き、ZONE02、ZONE03、展示エリア「大地」の照明設計を手掛けた。課題となったのは、映像や音響、来場者の操作に連動して光を細かく変化させながら、限られた予算内に収めることだった。
ZONE2の「NOMO Forest」は、木々の間から自然光が差し込む森をイメージした空間だ。天井に色温度5000Kのスポットライトを設置し、床面の12カ所に木漏れ日のような「光だまり」をつくった。7分半の演出に対して32の照明シーンを設定し、光だまりを呼吸するように順番に明滅させた。水滴の音が流れる場面では、音に合わせて床面に波紋が広がるように光を変化させ、体験の終盤には光だまりを次のゾーンの入り口へ集めて来場者の移動を促した。来場者が結晶型デバイスをかざすと岩と球体のオブジェが反応して光り、天井照明も連動して明滅する演出とした。
映像と連動するスポットライトには、通常繊細な演出に用いるDMX制御ではなく、一般照明向けの制御方式を採用した。あらかじめ設定したシーンを数秒間隔で切り替えることで光を滑らかに変化させた。
パナソニック エレクトリックワークス ライティング事業部 エンジニアリングセンター プロフェッショナルエンジニアリング部 環境演出ソリューション推進課 先崎綾華氏は「DMXを使えば、映像との連動や細かな制御はしやすかった。しかし今回はコストを抑えることが求められたため、一般照明向けの制御方式で実現する方法を検討した。タイムシートを作成して他の演出に合わせて照明がぴったり合うように調整し、繊細な演出を実現した」と振り返る。
セルロースファイバー(CeF)樹脂製の17本の葉のオブジェは、天井へ伸びる表情を際立たせるため、床面に小型のアッパーライトを内蔵。3本ずつグルーピングし、DMX制御によりグループごとに明滅させてリズムを生み出している。
展示エリア「大地」では、和紙で作った網状の天井材の上に照明器具を設置した。天井を通した光が床面に模様を落とし、森の中に差し込む木漏れ日のような光の空間を創出した。エリアに設けた大小2つの「バイオセンサリードーム」では、マイクロLEDを用いた照明器具「DOT.LIGHT(ドットライト)」を採用した。一般的には映像プロジェクターを使うような光のきらめきや動きを照射できる。一方のドームでは天井から差し込む木漏れ日や光の柱を再現し、もう一方ではミストに光を当て、水滴のような光が現れる演出とした。
カームダウンルームは間接照明のみで、知覚負荷の少ない青色や電球色に近い色を採用することで落ち着き感を演出した。
1932年竣工の隅田川橋梁、鉄道信号に配慮して色を調整
ノモの国と同じく先崎氏が照明計画を担当したJR総武線隅田川橋梁(きょうりょう)も、「Award of Merit」を受賞した。隅田川橋梁は1932年に竣工した鉄道専用のアーチ橋で、全長96メートルのアーチ部分をライトアップした。
JR東日本からは、近隣住民に愛着を持ってもらえるライトアップにしたいとの要望があった。そこで、近くにある両国国技館のつり屋根に下がる四つの房を照明のテーマに採用した。通常時は周辺に多い温かみのある光になじむように、電球色を基調とした。その中に濃いオレンジ色を加え、光が橋の端から端までゆっくり移動する演出とした。
毎正時には、両国国技館の四房が表す青龍、白虎、朱雀、玄武の4色を取り入れた。午後6時から10時までの1日5回、水色、白、桃色、青紫の順に45秒ずつ変化させ、計3分間の演出を行う。色の設定には鉄道橋特有の制約があった。南方を守る朱雀は従来朱色で表現されるが、赤色の鉄道信号と区別する必要がある。そのため信号と見分けられる桃色寄りの光へ変更した。
鉄道橋のライトアップでは、外からの見え方だけでなく、列車の運行に照明が支障を与えないことも求められた。照明器具のまぶしさを抑え、鉄道信号と照明の色を明確に見分けられる必要がある。
パナソニック エレクトリックワークスはLightningFlowを使い、光の色や移り変わる速度を事前に検証した。さらに、実物に近いスケールで映像を表示する3Dドーム「サイバードーム」に関係者を招き、光の速度や色を確認。その場で意見を聞き、設定へ反映した。
サイバードームでは運転士の視点も再現し、照明器具のまぶしさや色の見え方を確認した。その後現地でも照明を確認し、器具の角度や色を決定した。
先崎氏は「一般的な3Dシミュレーションによる検討は世界的にも普及している。今回は等身大に近い環境で運転士の視点を確認しながら演出を決めたのが特徴だ」と話した。
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