万博の大屋根リングを浮かび上がらせた「新しい夜」 照明設計の舞台裏:IES Illumination Awards(1/3 ページ)
北米照明学会が主催する「IES Illumination Awards」で2026年8月、万博の大屋根リングが屋外照明デザイン部門の「Award of Excellence」を受賞した。この他、パナソニック エレクトリックワークスが照明計画に携わった3件が「Award of Merit」に選ばれた。照明計画を手掛けたパナソニック エレクトリックワークスの担当者に、設計の狙いや実現までの工夫を聞いた。
2025年大阪・関西万博のシンボルとなった、世界最大級の木造建築物「大屋根リング」。その夜間の美しい佇まいを演出したのが、巨大な木架構を緻密に照らし出す照明デザインだ。
米ニューヨークに本部を置く北米照明学会(Illuminating Engineering Society/IES)が主催する「IES Illumination Awards」で2026年8月、大屋根リングが、屋外照明デザイン部門で特に優れたデザインに贈られる「Award of Excellence(優秀賞)」を受賞した。ライティングデザインを担当したパナソニック エレクトリックワークスの作品としては他にも、万博パビリオン「ノモの国」、JR総武線隅田川橋梁(きょうりょう)、柏の葉スマートシティーの「SMC Japan Technical Center Bldg.A」も「Award of Merit(入賞)」に選ばれた。
巨大木造建築、体験型パビリオン、1932年竣工の鉄道橋、研究開発拠点と、4つのプロジェクトは規模も用途も異なる。照明計画を手掛けたパナソニック エレクトリックワークスの担当者に、設計の狙いや実現までの工夫を聞いた。
約2キロの大屋根リング、「新しい夜」を光で表現
大阪・関西万博の会場を囲む大屋根リングは、内径約615メートル、外径約675メートル、一周約2キロに及ぶ世界最大級の木造建築物だ。木造建築の伝統構法「貫接合(ぬきせつごう)」を生かした構造物で、地上部分の「グラウンドウォーク」と屋上の「スカイウォーク」から成る。外周部の高さは約12メートル(最高部約20メートル)に達する。
基本設計/実施設計/工事監理は会場デザインプロデューサーの藤本壮介氏が手掛けた。基本設計は東畑建築事務所と梓設計のJVが担当。ランドスケープディレクターは忽那裕樹氏、照明デザインディレクターは東海林弘靖氏が務めた。
実施設計と施工は北東、南東、西の3工区に分割し、大林組、清水建設、竹中工務店をそれぞれ代表とする3つのJVが担った。
パナソニックは照明計画に携わり、照明シミュレーションや器具の選定、制御システムの構築、現場での照射角度や色の調整など、東海林氏が手掛けた照明デザインの実現を技術面から支えた。
照明コンセプトは東海林氏が掲げた「新しい夜」だ。パナソニック エレクトリックワークス ライティング事業部 エンジニアリングセンター 大阪エンジニアリング部 大阪照明EC 山城治彦氏は「1970年の大阪万博でも『新しい夜』という言葉が使われていた。当時は夜を明るく照らすことが新しいとされたが、今回は単なる明るさを追求するのではなく、限りあるエネルギーに配慮し、必要な明かりをわずかにともすことを目指した」と説明する。
この考え方を基に、「来場者へのおもてなし」「責任ある屋外照明をつくる」「持続可能な未来を見据えて」という3つの方針を定めた。
地上回遊路のグラウンドウォークでは、地上の明るさを確保する色温度3000Kのスポットライトと、大屋根のエッジ部分を照らす小型投光器を設置。スポットライトは木架構の梁(はり)側面に3台ずつ並べ、路面の照度むらを抑えながら、温かみのある光環境をつくった。器具はリング全周で同じ方向に取り付け、歩く方向によって光源が見えにくくなるようにした。光源の存在を抑えながら、夜間の木架構を美しく見せる狙いだ。
場所の用途に応じて明るさも変えた。人が集まる広場部分は150ルクスを確保する一方、通路部分の平均照度は50〜100ルクスに抑えた。同じ器具を同じ台数配置し、出力によって照度を調整することで、リング全体のデザインの連続性を保ちながら、省エネルギーと必要な明るさを両立した。
万博会場では天空への光漏れを抑えるガイドラインが定められており、リングの輪郭を夜空に浮かび上がらせながら、上空へ漏れる光を抑える必要があった。そこで、木架構の端部を照らす小型投光器にはルーバーを取り付け、シミュレーションと現地確認を重ねながら設置位置や照射角度を調整した。
山城氏は「どの角度なら光が上空へ漏れず、リングの端部を美しく浮かび上がらせられるか、現場で何度も実験した。器具の角度を調整し、ガイドラインに沿う位置を探った」と振り返る。
スカイウォークでも、光源を直接見せない配置にこだわった。リングの内周側には、1.2メートル間隔でフルカラーのスポットライトを配置。足元だけを照らすように、低い位置に下向きで設置し、フードを取り付けて光源が歩行者の視界に入ることを避けた。
スロープの下面と手すりにはライン照明を設置した。モックアップによる検証を重ね、光漏れを抑えながら歩行に必要な明るさを確保。通路全体を過度に明るくするのではなく、スロープ自体が浮かび上がるように演出した。
二十四節気や人の流れに応じて光を変える
大屋根リングでは、日没後を「暮」「宵」「真夜」の3段階に分け、時間帯に応じて光の演出を変化させた。
日没30分前から午後9時までの「暮」では、淡い光が呼吸するようにゆっくり明滅する「呼吸/うごめき」を基本とした。また30分ごとに、日本の二十四節気に合わせた色の演出へ切り替えた。色のコンセプトは約2週間ごとに変更し、季節の移ろいや伝統行事を光で表現した。
午後9時から9時45分までの「宵」には、リング全体に設置した9台のAIカメラでスカイウォークの通行人数を検知し、クラウドとサーバーと連携して、照明を「普通」「やや混雑」「混雑」の3段階で制御した。人数に応じて明るくすることで、効果的な演出と安全性の確保に加え省エネ化を図った。
山城氏は「一般的な人感センサーでは、人がいるかいないかを検知する。今回は、人の密度によって照明のパターンを変えられないかという実験的な試みだった」と説明する。
午後9時45分から10時までの「真夜」では、来場者の退場を促すため、歩く速さに合わせて光がリングを回る演出を設定した。閉園後は調光比を20%まで落とし、残置灯として淡く点灯させた。
3工区の照明をクラウドで一体制御
大屋根リングが体現する理念は「多様でありながら、ひとつ」。しかし、設計・施工は3工区に分かれ、照明のコントローラーも工区ごとに設置された。個別に動かすと、リングを一周する光の演出が工区の境界で途切れたり、タイミングがずれたりする可能性があった。
照明演出の検討には、パナソニックの照明シミュレーションツール「LightningFlow(ライトニングフロー)」を活用し、関係者間での打ち合わせを重ねた。工事段階では、現地に持ち込んだPCと照明器具を直接接続する「ライブ再生」を実施。関係者の意見を聞きながら、その場で色や明るさ、光の動きを変更し、プログラムを持ち帰って作り直す工程を省いた。デモに要する時間や回数を大幅に削減し、合意形成の質も格段に向上させたという。
パナソニック エレクトリックワークス ライティング事業部 エンジニアリングセンター 東京エンジニアリング部 技術コンサルティング課 辻佐代子氏は「今回は規模が大きく、3工区それぞれにコントローラーが設置されていた。LightningFlowを使うことで、3工区の照明演出を一連の流れとして確認できたことが、円滑な合意形成につながった」と振り返った。
照明の制御には、街演出クラウド「YOI-en(ヨイエン)」を用いた。クラウドから各工区のコントローラーへ一斉に指示を送り、一周約2キロのリングを一つの照明空間として動かす仕組みを構築した。工区の境界を越えて光を連続させ、演出のずれや途切れを防いだ。
Yoi-enでは、遠隔から照明システムの状態を監視/操作できる。不具合が生じた場合も遠隔で状況を確認できるため、保守担当者が現地へ出向く回数を抑えられる。大屋根リングへの導入は、YOI-enを使った照明制御として過去最大規模だったという。
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