「省エネ改修は事業化が困難」の先入観を打ち破る 日建設計の「ゼノベ」プロジェクト始動:スマートビル(2/2 ページ)
政府が目標とする2050年までのCO2排出量ゼロ達成には、既存オフィスビルの省エネ化が欠かせない。だが、現状では事業収益化に結び付かず、市場は停滞している。こうした中、日建設計は日本政策投資銀行とDBJアセットマネジメントと手を組み、省エネ改修のメリットを施主や不動産デベロッパーにも“見える化”する「ゼノベ」プロジェクトを開始した。
初弾の「日建ビル1号館」は光熱費削減により、4年で投資を回収
ゼノベプロジェクトの第一弾となったのが、日建設計の大阪本社として1968年に竣工した「日建ビル1号館」の改修プロジェクトだ。建物はSRC造/地下1階地上7階建て、延べ4140平方メートルのオフィスビルで、設計・管理は日建設計、施工は藤木工務店が担当し、2025年3月に完了した。
日建ビル1号館はコンクリートに意匠が施され、環境配慮を狙ったルーバーが外観のアクセントとなっていた。そのため、改修工事では既存躯体を生かし、外装は最低限の変更にとどめている。メインは設備の全面改修で、高性能ガラスや低層階二重サッシ化などの断熱強化と高効率機器の採用で、建物の1次エネルギー消費量を50%以上削減する「ZEB Ready」認証を取得している。
省エネ化の設備では、空調容量の最適化のために、空気の搬送動力が少ない天井カセット型空調機の導入や人感センサーを活用した照明ON/OFFの最適化などを行った。オフィスで働く社員には、リフレッシュスペースとなるバルコニーの新設やトイレ、給湯スペースの改修でアメニティーを改善し、ワークプレースの過ごしやすさにも気を配った。
また、建設時に石油由来の建材を減らし、リノリウムシートの使用で25トン、断熱サッシを木製とすることで1.4トンのCO2削減を減らして、建物の運用段階以外での“エンボディードカーボン”のCO2排出量も削減した。
省エネ効果の数値としては、既存建物の構造杭、基礎、躯体を100%再利用したため、建設時のカーボン排出量を2580トン削減した。年間1次エネルギー消費量を基準値から50%以上削減する「ZEB Ready」の基準に沿って改修したことで、今後50年間で1万453トンのCO2排出を減らせる見通しだ。
費用対効果はZEB化の追加コストは約4000万円で、光熱費の削減量は1年目で坪当たり826円/月なので、年間約1200万円の削減となり、約4年でコスト回収が可能だという。
日建設計らは今後、日建ビルで得た各種データや手法を積極的に発信し、不動産の上流に環境改修のメリットを広く知らしめ、市場に機運を醸成させる方針だ。
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