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BELS、CASBEE、DBJ GB…環境性能認証は不動産の“必須要件”になるか(前編)「省エネ計算の専門家」が解説する建築物省エネ動向(2)(2/2 ページ)

本連載では、環境・省エネルギー計算センター 代表取締役の尾熨斗啓介氏が、省エネ基準適合義務化による影響と対応策、建築物の環境認証などをテーマに執筆。連載第2回は、不動産業界で勝ち残るカギの1つとなるグリーンビルディングと建築物の環境認証の役割について解説します。

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建物環境認証の特徴と取得メリット

 既存建物における日本の主要な環境性能認証は、BELS、CASBEE-不動産、DBJ Green Buildingの3つです。それぞれの特徴や取得のメリットを見て行きます。

BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)

 BELSは第三者評価機関が建築物の省エネ性能を評価し、星や家マークの数でランク付けします。専門知識がない人でも性能が視覚的に分かりやすいのが特徴です。新築住宅の購入を検討中の個人や、オフィスビルに入居を検討している企業などが理解しやすい制度といえます。

 なお、ZEHやZEBはBELSで最高ランク以上の省エネ性能を持ち、さらに太陽光発電などの再生可能エネルギー(創エネ)も取り入れることで、建物のエネルギー収支を実質ゼロにしたものです。そのため、ZEHやZEBはBELSの要件を満たした上で、さらに高度な環境性能を実現した建物といえるでしょう。

CASBEE-不動産

 CASBEE-不動産は環境配慮に加え、室内の快適性や景観への配慮なども含めた、建築物全体の品質を総合的に評価する認証です。比較的短期かつ簡略的に不動産をブランディングできるツールとして、不動産マーケットの関係者に利用されています。認証を取得することで高品質な物件としてのアピールが可能になり、賃料の上昇やキャップレートの低下などが期待されます。

 CASBEE-不動産は2024年12月からホテル版の運用が開始され、今後はウェルネスオフィス版の運用も予定されています。将来の福祉施設や学校への展開に向けた基礎研究も進められています。

DBJ Green Building

 DBJ Green Buildingは、不動産のサステナビリティをESGに基づく5つの視点(建物の環境性能、危機に対する対応力、ステークホルダーとの協働、多様性/周辺環境への配慮、テナント利用者の快適性)で評価します。

 不動産を通じたESG投資の指標として、投資家や金融市場向けのIR/CSR活動に利用されています。2024年4月にホテル版の運用が開始されるなど、J-REITを中心としたREITやファンドの需要に合わせて対象用途が拡大していくと予想されています。

環境性能認証取得の重要性と今後の展望

 環境への配慮を求める社会的要請が高まる中で、ESG重視の影響は不動産業界にとって避けられない課題となっており、グリーンビルディング化の重要性は今後ますます高まっていくでしょう。

 グリーンビルディングに入居する企業は「環境や社会課題に取り組む企業」と評価され、消費者から支持を得やすくなるというメリットがあります。そのため、特に環境に配慮した商品やサービスを提供する企業にとってテナントビルを選択する際に建物の環境性能は重要な判断材料となります。

 このような状況から、グリーンビルディングであることを証明する環境性能認証の重要性も、今後さらに高まることが予想されます。

 現在、ZEBの実現に必要な省エネ設備や再生可能エネルギー設備の導入に対しては、国の補助金を活用できます。しかし法律で義務化が進めば、補助制度も縮小する可能性があります。補助金や支援制度が使える今のうちに環境性能認証を取得しておくことが、不動産業界で勝ち残るカギといえるでしょう。

評価の種類 BELS(省エネ計算) CASBEE不動産 DBJ Green Building認証
概要/備考 省エネルギー性能のみを評価 総合的な環境性能を認証 総合的な環境性能を認証
取得タイミング 随時 竣工後1年以上(竣工後1年以上の運用実績が必要) 随時
有効期間 - 5年 3年
用途 全用途 オフィス、物流施設、店舗、共同住宅 オフィス、物流施設、商業施設、レジデンス、ホテル
省エネ計算
BELS活用 ○(水光熱費 or BELS) ○(加点)
評価項目
(※()内は評価項目の重み係数を表す)
エネルギー/温暖化ガス 1項目(省エネ計算のみ) 5項目(35) -
- 4項目(10) -
資源利用/安全 - 5項目(20) -
生物多様性/敷地 - 5項目(20) -
屋内環境 - 4項目(15) -
建物の環境性能 - - 26項目(40)
テナント利用者の快適性 - - 20項目(20)
危機に対する対応力 - - 12項目(15)
多様性・周辺環境への配慮 - - 16項目(15)
ステークホルダーとの協働 - - 11項目(10)
手間/時間 小〜中(1〜2カ月程度) 中(2〜3カ月程度) 中(2.5〜3カ月程度)
第三者による評価 評価 認証 認証
面談・実査 なし なし 面談あり、実査あり
メリット ・手間が少ない
・省エネ性能が一目でわかる
・新築/既存を問わず評価が可能
・有効期限がない
・GRESBの評価項目の加点対象となる
・CASBEE建築に比べ、短期間かつ低コスト(評価項目が1/5程度)での評価認証取得が可能
・GRESBの評価項目の加点対象となる
・各評価項目の根拠資料を添付する必要がないため、手間が軽減される
・GRESBの評価項目の加点対象となる
・CASBEEがハード面での評価に対しDBJGB認証はソフト面も評価するためESG投資のバランスが良いといわれている
・新築、既存を問わず評価が可能
デメリット(他制度との比較による) ・CADデータがない場合は、一部、図面のCAD化などの対応が必要
・有効期限はないが時間経過による変化がないことを保証するものではない
・必要項目を満たす必要がある
・認証を取得する場合、各項目の根拠資料が必要となる
・認定審査料が高め
・有効期間が短め

著者Profile

尾熨斗 啓介/Keisuke Onoshi

環境・省エネルギー計算センター(運営会社:HorizonXX)代表取締役。

日本大学 理工学部 建築学科、日本大学大学院 理工学研究科 不動産科学専攻卒業後、大手日系証券会社に入社。不動産ファンドアレンジメントやREIT主幹事業務に従事する。その後、大手外資系証券会社で同様の業務に従事。2012年に独立し、HorizonXX(ホライズン)代表取締役に就任。2019年に「環境・省エネルギー計算センター」のビジネスを開始。

現在、建築物の省エネ性能が基準を満たしているかどうか調べる「省エネ計算業務」を引き受け、国の政策推進に貢献する「環境設計士」という新たな職業の確立を目指し、年間約1000件の省エネ計算/環境性能認証取得サポートを請け負う。

近著に『環境性能認証に対応できる「不動産・建築ESG」実践入門』(日本実業出版社)。

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