建設業界で“前向きなM&A”が増加 大手仲介企業がM&A活用の成長戦略と成功例を解説:第6回 建設・測量生産性向上展(3/3 ページ)
長年にわたる人材不足に加え、団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる“2025年問題”も重なり、労働力の長期的な確保が一層難しくなっている建設業界。後継者の不在や働き手の枯渇で事業継続が困難となり、買収される企業も多い中、会社成長の観点で“M&A”に活路を見い出す経営者も増えている。先行き不透明な時代に、“前向きなM&A”が活発化している要因とは何か。
自社の強みを理解すれば、自ずとM&Aの成功につながる
神奈川県の設備工事企業「日建」と富山県の設備工事企業「北陸電気工事」の事例では、どちらも同様の顧客を抱える「水平統合型」に分類される。譲渡側の日建は創業以降、右肩上がりに業績を伸ばし、年間売上は60億円に到達。しかし、企業規模の増大に従って従業員の管理が追いつかず、社内規定の改定に苦心していた。そうした中、プライム上場企業の北陸電気工事とのM&Aを成約した。北陸電気工事の管理システムを導入し、福利厚生も見直して、譲受企業が関東地方へ進出するきっかけもつくった。
「電材ホールディングス」とシンガポールでクレーン工事を手掛ける「Huationg Holdings(ホアチョン ホールディングス)」とのM&Aは「水平統合型」でありながら、海をまたいだ会社統合となった。
HUATIONGは、長年シンガポール国内のインフラを支えてきた企業で、さらなる飛躍を目指し、海外進出をもくろんでいた最中だった。そのときにクレーンや特殊車両のリースなど建設業全般を展開する電材ホールディングスがシンガポールでの施工実績に着目。2社間の海外展開に向けた事業戦略が一致し、業務提携の締結に至った。
木佐木氏は他にも、ファンド企業のマラトンキャピタルパートナーズに会社を売却した神奈川県で大規模修繕工事を主に展開する建設会社「SPJ」の事例にも触れた。SPJは好調な業績でありながら、後継者がいない現状に経営者が危機感を感じ、会社の譲渡を決意。ファンド企業とのディスカッションを通して、新システムの導入や組織体制の刷新など、会社の体制をイチからつくり変えたという。
「従来の事業承継といえば、第1候補に親族を挙げ、難しければ第2候補に現取締役や敏腕の従業員を挙げ、それでも実現し得なかった場合、最後の手段としてM&Aを検討するケースが多かった。しかし、最近は3つの可能性を同時並行で検討していくケースが多い」と木佐木氏。より良い事業承継を実現するためには、自社の強みを改めて理解し、「どの方法が最適か」を客観的な視点で判断できる分析力が必要となる。
会社が今以上に成長するために、最も適した方法は何か。M&Aは、建設業界の課題を解決する可能性を持つ重要な選択肢のひとつとして、注目度を高めている。木佐木氏は、「会社の将来的な成長について悩んでいる経営者は、ぜひ話を聞かせてほしい。ステップアップにつながる手伝いができれば」と言葉を結んだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
大手ゼネコンの建設DX戦略:デロイトが分析、なぜ大和ハウス工業が“建設DX”の先頭にいるのか? 守りから攻めのDXへ
大手の建設業各社は、設計段階のBIM活用を皮切りに、建設生産プロセス全体でデジタル変革を目指しているが、一品受注生産などが理由となって柔軟に対応できている企業は多くはない。そうした中でDXの波にいち早く乗った大和ハウス工業は、“守りと攻め”のDX戦略を展開し、設計、製造、施工、維持管理をデータドリブンで連携するなど、他社に先駆け、デジタル変革が実現しつつある。Archi Future 2024:高砂熱学や千代田化工と共創開発したArentの「BIM×自動化」で実現する建設DX
「暗黙知を民主化する」を掲げ、建設DXを推進するスタートアップ企業のArentは現在、建設業向けにDXコンサルティングから、システム開発、事業化までのプロダクト共創開発に注力している。高砂熱学工業とはBIMを核に据え、建設生産プロセスのデータを統合したSaaSプラットフォームを構築し、千代田化工建設とはプラントの自律設計ツールを開発した。大手ゼネコンの建設DX戦略:清水建設の中期DX戦略「“超建設”×DX」とデジタル化で外せない情報セキュリティ
清水建設は2014年にICT戦略を策定して以降、これまでのデジタル化やDXへの取り組みが評価され、2021年から3年連続で東京証券取引所の「DX銘柄」に選定されている。現在は2030年までのDX戦略の方針となる「SHIMZ VISION 2030」を打ち出し、“スマートイノベーションカンパニー”へ成長することを標ぼう。そこで重要となる要素が、「超建設」とデジタル活用で欠かせない「情報セキュリティ」だ。産業動向:清水建設、DX推進で社長直轄組織設立へ 「デジタル活用人財」2000人超を育成
清水建設は、「中期DX戦略<2024−2026>」を発表した。今後戦略に基づき、DX推進のコアとなる社長直轄組織を設立する他、高度なITツールを活用して業務改善を推進する「デジタル活用人財」2000人以上の育成、社内外のデータをワンストップで活用できるデータ基盤の整備などを進める。大手ゼネコンの建設DX戦略:建設業の経営者は何をDXのゴールとすべきか?変革の本質や苦労話をゼネコン4社が徹底討論
東急建設、鴻池組、大林組、西松建設の建設DXで陣頭指揮を執る4人の担当者が、MCデータプラス主催の「建設DXカンファレンス2024」で、「DXを推進した先で何を“成果=ゴール”と考えるか?」をテーマに、経営目線でDX戦略の方向性や現状の課題について熱論を交わした。産業動向:高砂熱学とAutodeskが戦略的提携を再締結 BIMを中核に業務プロセス全体を変革
高砂熱学工業と米Autodeskは、「戦略的提携に関する覚書」を更新した。両社は、BIMを中核とした新たな業務プロセスの確立と、建物運用時のカーボン排出量を含む建物ライフサイクル全体でのカーボン最適化を目指す。