建設業界で“前向きなM&A”が増加 大手仲介企業がM&A活用の成長戦略と成功例を解説:第6回 建設・測量生産性向上展(2/3 ページ)
長年にわたる人材不足に加え、団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる“2025年問題”も重なり、労働力の長期的な確保が一層難しくなっている建設業界。後継者の不在や働き手の枯渇で事業継続が困難となり、買収される企業も多い中、会社成長の観点で“M&A”に活路を見い出す経営者も増えている。先行き不透明な時代に、“前向きなM&A”が活発化している要因とは何か。
2010年にM&Aの潮目が変わり、景気の好転とともに増加傾向に
建築業界でM&Aの需要が増えている最大の要因は、譲受側と譲渡側の利害の一致だ。譲受側はさらなる事業拡大を見据え、職人の持つ唯一無二のノウハウを社内に浸透させていきたい意向が強い。一方で譲渡側となる建設業界は、他業種と比較しても留まる気配のない人手不足と時間外労働の上限規制が始まった2024年問題の影響で、早々の事業転換を求められている企業も少なくない。
双方の要望を叶(かな)えるために、大手企業が明確な事業戦略を持って事業を再構築するとともに、建設業のスキルや経営方針、仕事への熱い思いを受け継ぐ。互いにWin-Winな関係性を構築できるのが、ここ最近のM&Aにみられる最大のメリットとなっている。
久力氏は、国土交通省が発表しているデータを引用し、1996年から2022年にかけて実施された建設業界のM&Aの傾向を分析し、「2010年頃を境に不良債権処理ではなく、友好的なM&Aが増えてきた」と話す。
2008年に起きたリーマンショック以前は、建設投資額の減少とともにM&A件数は増加していく反比例だったものの、2010年以降は仕事量が増えると同時にM&A件数も伸びる比例していく傾向に変化。背景には、好景気に伴う人材不足の加速があった。「東日本大震災や東京五輪で業界は活性化したが、高度経済成長期に会社を創業した経営者の高齢化による後継者不足が重なり、業績は好調なのに担い手は足りない状況になってしまった。ゆえに人材獲得を目的としたM&Aが増え始めた」(久力氏)。
約30年後には生産年齢人口が30%減少すると予測されており、数十年後を見据え、企業同士でどれだけ連携し合えるのか、互いを成長させるための土壌をいかに形成させられるのかが、昨今のM&Aに求められている。
仕事量は増える一方、人材は枯渇。1社ごとの生産性向上が急務
続いてマイクを取った木佐木氏は、建設業を取り巻く社会的課題と人材不足問題を具体的に解説するとともに、ケーススタディーとしてM&Aの成功事例を採り上げた。
木佐木氏はまず問題提起として、「建設業界は、インフラの老朽化という課題に直面している。高度経済成長期に急ピッチで整備された道路やトンネル、高速道路などの改修に対応せねばならない。しかし、働き手はピーク時と比べ3割ほど減少し、今後はより一層人手不足が深刻化するだろう」との見解を示した。
平均賃金も過去10年との比較で、483万円から554万円へ約15%上昇。2024年問題に伴う時間外労働の規制が厳格化される中で、賃上げや材料費高騰などの問題は山積みになっており、1社の中小企業ではコストを賄(まかな)え切れなくなりつつある。「だからこそ、課題を一挙に解決する可能性のあるM&AやDXの需要は、今後も伸びるはず」と予想した。
建設業界のM&A成功事例の紹介では、3つの類型でそれぞれを説明した。その類型とは、商圏の異なる同業者間で連携し合い、営業エリアの拡大、既存事業の強化、新たなノウハウの獲得につなげる「水平統合型」、取引段階の異なる企業同士で内製化を進め、仕入れや外注費のコスト削減に役立てたり、事業の多角化を行う「垂直統合型」、いずれにも該当しないファンド企業が譲受企業となる「その他」の3つ。
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