“着工難民”発生の懸念も 4月施行の「建築物省エネ法」を専門家が徹底解説【新連載】:「省エネ計算の専門家」が解説する建築物省エネ動向(1)(2/2 ページ)
本連載では、建築物の省エネ計算や省エネ適合性判定、近年関心が高まる環境認証取得サポートなどを手掛ける「環境・省エネルギー計算センター」代表取締役の尾熨斗啓介氏が、省エネ基準適合義務化による影響と対応策、建築物の環境認証などをテーマに執筆。第1回は、施行まで1カ月を切った「改正建築物省エネ法」についてこれまでの建築物省エネ化の経緯も踏まえつつ解説する。
カーボンニュートラル実現に向けた省エネ性能確保のロードマップ
日本では、2050年のカーボンニュートラル実現に向けたロードマップが整備されています。ロードマップでは、2030年以降に新築される建築物について、ZEB/ZEH水準の省エネルギー性能確保、2050年には建築物のストック平均でZEB/ZEH水準の省エネルギー性能確保を目標としています。
その先駆けが、2024年4月に開始された「省エネ性能表示制度」です。従来は販売/賃貸事業者が広告などに建築物の省エネ性能を表示するのは、“努力義務”とされていました。しかし、省エネ性能表示制度では「事業者の取り組み状況が他の事業者の表示意欲の阻害につながっていると認められる場合、制度全体の信頼性を揺るがすような場合など」には、“勧告”することがあると明記されています。例えば「多数の住宅を供給する事業者が、比較的容易に表示できる状況にもかかわらず、それらの住宅について相当数表示を行っていないことが確認された場合」などが該当するようです。
2024年11月には既存住宅を対象とした「省エネ部位ラベル表示制度」もスタートし、省エネ化促進の動きは着実に広がっています。
省エネ基準適合の義務化により、全ての新築建築物が省エネ基準を満たすことを求められますが、そのハードルは思いのほか高いといえます。特に共同住宅では現状で、木造では7割、RC造で8〜9割、S造に至ってはほとんどが省エネ基準を満たしていないのが実情です。省エネ基準に適合させるには、建築費の上昇も念頭に置く必要があるでしょう。今後、段階的に進んでいく国の方針に対応していくためには、計画的な準備が不可欠です。
著者Profile
尾熨斗 啓介/Keisuke Onoshi
環境・省エネルギー計算センター(運営会社:HorizonXX)代表取締役。
日本大学 理工学部 建築学科、日本大学大学院 理工学研究科 不動産科学専攻卒業後、大手日系証券会社に入社。不動産ファンドアレンジメントやREIT主幹事業務に従事する。その後、大手外資系証券会社で同様の業務に従事。2012年に独立し、HorizonXX(ホライズン)代表取締役に就任。2019年に「環境・省エネルギー計算センター」のビジネスを開始。
現在、建築物の省エネ性能が基準を満たしているかどうか調べる「省エネ計算業務」を引き受け、国の政策推進に貢献する「環境設計士」という新たな職業の確立を目指し、年間約1000件の省エネ計算/環境性能認証取得サポートを請け負う。
近著に『環境性能認証に対応できる「不動産・建築ESG」実践入門』(日本実業出版社)。
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