「属人化した建設業務からAIと最適化で脱せよ」構造計画研究所が提言する“建設ナレッジ活用”:Archi Future 2024(3/3 ページ)
建設業界の生産・施工段階では、これまで情報の共有化が注目されることはなかった。現在でも過去の経験や知識、勘に依存した属人化した業務が常態化している。そうした中、構造計画研究所はAIと最適化技術の活用で、旧態依然とした仕事のフローからの脱却を提言する。
最適化技術で「建設物流2024年問題」に対応 従来比17%のコストダウン実現
宇野氏は、建設分野の物流に関して構造計画研究所が取り組む2つの事例を紹介した。
まず取り上げたのが、大小さまざまなサイズの製品をトラックへ効率的に積み込む試みだ。建材メーカーによるプロジェクトで、自社工場間の輸送に適用した。
建設関連の物資はサイズや形状がバラバラで、トラック輸送時にパレットを使えないことが多い。そのため、パレットを使用しない“バラ積み”を選ばざるを得ず、積み下ろしで長時間の作業を強いられていた。
トラック輸送の効率化を実現するには、パレットを使って積み下ろし速度を上げながら、同時に積載率は下げない両立が必要となる。
パレットに対して異なるサイズや形の物体を積むには、どのパレットに/どの荷物を/どんな形で積むかを決めなければならない。しかし、パレットのサイズは全て同じではないため、最低限のパレット数で必要な建材を確実に積むには複雑な計算が必須となる。長距離輸送では中継拠点での積み替えもあり、効率的な輸送には各トラックの荷台のどこにどの程度の空間が残っているかを把握する必要もある。
構造計画研究所では、どの製品をまとめて1パレットにするかの「パレット積み」、そのパレットをどのトラックのどの位置に積むかの「積み付け」の2段階の「積み付け計画システム」を構築した。プロジェクト自体はもともと建材メーカーが独自に始めたが、構造計画研究所のノウハウを活用することで、従来比17%のコストダウンが実現したという。
共同配送による建材物流ネットワークの理想像を検証
2つ目の事例は、ゼネコンによる共同配送の取り組みだ。持続可能な物流を目指し、建材物流ネットワークの有用性を検証した。
工事現場へ建材を運ぶ場面では、建材メーカーと現場が1対1の関係にある。また、現場への資材搬入時刻が朝8時30分に設定されていることが多い。そのため、現場ごとに配送トラックを手配する必要があり、トラック1台ごとの積載率が下がってしまう。現場側でも限られた時間で多くのトラックに対応しなければならなく、遅延すれば現場周辺で渋滞が発生する原因にもなり、環境への影響も問題視されている。
こうした現状に対する理想像は、ゼネコン側が建材サプライチェーン全体の情報を集約し、全体を俯瞰(ふかん)した最適な輸送計画を実現することだ。ただし、実現には多くのステークホルダー間で合意形成する必要がある。
構造計画研究所では、シミュレーションを用いて理想像がどのくらいの効果を生むのかを検証した。比較対象は。搬入/引き上げをまとめて行う場合と、搬入を8時30分ではなく9時や9時30分といった柔軟性を持たせた時間帯に緩和する場合だ。その結果、1カ月のトラック台数で40%以上の無駄な台数削減が見込めると判明した。
課題に対しては、コーディネイトとエンジニアリング力で対応
検証結果では、1人のドライバーが複数の現場を回ることによる積み下ろし時間が今まで以上にかかるという今後の課題も見つかった。また、納入時間を緩和したことで作業中にも荷物の受け入れる体制、動線や資材置き場の確保などの新たな必要性も顕在化した。こうした新たな課題については、構造計画研究所が「オペレーションズ・リサーチ」と称するシミュレーションの最適化技術で課題解決につなげていく。
宇野氏は建設物流の事例2件を踏まえ、課題解決には「建設プロセスで建設ナレッジデータ活用の全体像を検討し、効果が高い部分から段階的にデータの利用範囲を広げていくことが大切だ。まずは自社でできることから始め、複数社で取り組むことでより効果が見込める」とアドバイス。複雑な課題に対しては、「複数社で取り組むのが困難なケースもあるが、構造設計研究所では関係者間のコーディネイトも担い、エンジニアリングを駆使しながら取り組んでいる」とPRして講演を結んだ。
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