i-Con大賞を受賞 佐賀県の「政工務店」がICT施工を成功できた独自性:第6回 建設・測量生産性向上展(3/3 ページ)
建設業界では2022年を境に、デジタル技術を活用したICT施工に対応するICT建機の中でも小型サイズの需要が急速に高まっているという。国が2016年から進めるi-Constrctionよりも前から、ICT施工に取り組んできた佐賀県の地場ゼネコン「政工務店」は、現在では40台以上のICT建機を現場で稼働させている。なぜ、地方の総合建設業がそれほど多くのICT建機を運用できるのか?また、国が進めるICT施工で受けられる建設会社の恩恵は果たしてあるのか?
なぜ政工務店は、短期間に多くのICT建機を保有できたのか?
政工務店では当初、毎年1台のペースでICT建機を増やし、10年後に10台を保有する目標を立てていた。しかし現実は、それよりも速いスピードで導入が進んだ。講演時の自社保有ICT建機は38台で、既にその時点で40台以上の導入が決まっていた(政工務店Webサイトによると2024年9月1日時点の保有台数は42台)。
ICT建機の保有台数を急速に増やすことができた理由を藤本氏は、取り付け作業や整備を内製化したためと説明する。例えばICTシステムは、藤本氏自らが重機に取り付けている。「九州にはメーカーの技術者は少なく、メーカーに任せ切りではメンテナンスや修理、データ入力の不具合などに対応できない。ならば自分で覚えたほうが早いと思い至った」。
藤本氏はメーカーの技術者に帯同して技術を習得し、重機への取り付けから、キャリブレーションまでを社内で完結する体制を整えたことで、メーカーに頼らずとも、重機の稼働率が高まり、保有台数を増やすことが可能になった。
藤本氏によれば、現場の意識変化も大きな要因になったという。導入2年目くらいまでは、ICT建機に使われてしまっている感覚のオペレーターが多かったが、3〜4年が経過して操作に慣れると、オペレーター自身が建機をどう使いこなしていくかを主体的に考えるようになった。
他社に先駆け、ICT事業に着手し、着実に社内体制を整備してきた政工務店。先見のある取り組みは、2016年のi-Construction以降、多大な成果をもたらすこととなった。全社でICT施工に向き合う体制でi-Constructionにいち早く対応し、数多くのICT工事を受注することに成功した。
小規模現場で威力を発揮する「ViO30-6」
政工務店は、国の大規模事業だけでなく、県や市町村の中小規模の現場も含め、全ての現場でICT施工を実施する方針を掲げている。そのため保有するICT建機は、18メートルのスーパーロングから、ブルドーザー、モーターグレーダー、切削機、点圧機、0.15立法メートル小型小旋回のバックホーまでバラエティに富む。ヤンマー建機製ではViO30-6を2台導入し、狭小現場で活用している。
1台目のViO30-6を導入したのは2018年12月。藤本氏は決め手を「3Dマシンコントロール仕様にするニコン・トリンブル製システムのEARTHWORKS(アースワーク)を搭載し、スイングブームのマシンガイダンスが可能だったため」と話す。
導入後は12トン以上のバックホーが入らない狭い現場での掘削作業、耕作地の畦畔(けいはん)盛土、舗装後の路肩盛土などに用い、作業精度や効率が向上した。
2台目は、2022年1月に発売したブレード3Dマシンコントロール機能の「ViO30-6 ブレード3DMC仕様」で、主に舗装工事で活躍している。「歩道の施工では、横断勾配2%の箇所が頻繁にあるが、ViO30-6 ブレード3DMC仕様はブレードにチルト機能があり、マシンコントロールできるため、効率よく業務を進められる。モーターグレーダーでは施工しづらい歩道や駐車場のような四角形の場所でもICT施工が可能で、活用シーンは多い」(藤本氏)。
藤基氏「ICT施工にデメリットはない」
ICT建機の現場での評判は上々。「現場監督からは、従来の倍近い速さで施工が終わったとの報告も寄せられている。短期間で施工が求められる舗装工事では、迅速かつ高精度で施工できるメリットは大きい。重機オペレーターからも、丁張りを気にしないで施工できるため作業効率が上がったやデータ使用で材料ロスが減ったなどの好意的な声が聞こえてくる」(藤本氏)。
一方で、ICT施工のためには、3D設計データの作成や現場への自動追尾トータルステーションの設置など、これまでにない工程が発生する。こうした手間は通常、ICT施工のデメリットとされるが、橋本氏は「ICT施工で得られる成果を考えるとデメリットとは呼べない」と断言する。「新たな工程は、経験を重ねれば克服できる。当社でも導入後1年も経てば現場オペレーターが設計データを作成してほしいと要望してくるくらいで、ICT建機の活用効果は高い」と語る。
ネックとなりがちな導入コストも、「決して安くはないが、短時間で高精度な施工が可能で、空いた時間を別の作業に振り分けるなど業務の効率化が図れるため、コストに見合うと成果がある」とし、「自社が現在40台以上のICT建機を保有できていることは、ICT施工で利益が上げられることの証左だ」と自信を示した。
最後に藤本氏は、2024年からスタートする建設現場の省人化を目指す「i-Construction2.0」に触れ、「この機会にぜひ多くの企業がICT施工に挑戦してもらいたい」とエールを送った。
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