3DプリンティングとCO2固定化コンクリで、環境負荷低減の“友禅流し”ベンチ製作 金沢工大と鹿島建設:デジタルファブリケーション
金沢工大と鹿島建設は、CO2で固まるコンクリートを素材に用い、3Dプリンティングで公園のベンチを製作した。今回の産学連携の取り組みで、設計から製造に至るプロセスのデジタル化と、景観に馴染む意匠を表現するための複雑な形状の実現を実証。さらに、3DプリンティングとCO2-SUICOMの融合で、セメント系造形物として、カーボンネガティブとなる3Dプリンティング製作を達成した。
金沢工業大学と鹿島建設は、建設分野向けのセメント系3Dプリンティングと、CO2を材料に固定化させるカーボンネガティブコンクリート「CO2-SUICOM(スイコム)」の技術を組み合わせ、「カーボンネガティブ3Dプリンティング」に関する研究開発を共同で進めている。
2024年3月には、公共物製作プロジェクトの成果として、ベンチを製作し、金沢市内の外濠公園二号地に設置した。
3Dプリンティング技術でベンチ脚部をヒダ形状に、CO2吸収割合を2倍以上に向上
3Dプリンティングの技術は、従来の型枠を用いた施工方法では実現が困難な造形を可能にするため、建設分野でも注目を集めている。また、2050年カーボンニュートラル社会の実現に資する技術として、CO2-SUICOMを含む環境配慮型コンクリートの開発も、急ピッチで進められている。CO2-SUICOMは中国電力と鹿島建設、デンカの登録商標で、CO2-Storage and Utilization for Infrastructure by COncrete Materialsの略で、製造過程において大量のCO2を強制的に吸収し、固定化させ、コンクリート製造のトータルCO2排出量をゼロ以下にするコンクリート。
両者は3Dプリンティングと環境配慮型コンクリートを早期に社会実装を進めていくには、両技術で製作した実用的な構造物をできるだけ多くの人が触れられる場所に設置し、使ってもらうことで、フィードバックを得て、さらなる改良を図ることが必要だと捉えた。そのため、今回は、計画の当初から成果物を公共の場に設置することを目標とし、金沢市の協力を得て、産官学の取り組みとして検討を進めてきた。
3Dプリンタは、型枠無しで複雑な形状の造形物を製作できることが利点となっている。一方、CO2-SUICOMは、外部からCO2を強制的に供給することで、部材の表面からCO2を吸収して固める。CO2を効率的に固定化させるには、CO2との接触面積を増やすことが有効とされる。そこで製作したベンチは、3Dプリンタの造形技術でベンチ脚部をヒダ形状にし、空隙がないベンチと比べ、表面積を約1.7倍に増大し、CO2吸収割合を2倍以上にまで向上させている。
ベンチの製作は、金沢工大の「やつかほリサーチキャンパス」内の「KIT×KAJIMA 3D Printing Lab」に設置したロボットアーム式の3Dプリンタを用いて製作。土木、建築、機械分野などの研究室の教員や学生も多数参画し、鹿島建設の技術者と一体で研究を進める体制を構築した。3Dプリンタの機械的な制御や意匠性、構造成立性、ベンチとしての安全性やCO2の吸収効率までを考慮したデザイン、プリンティングする材料などを多岐にわたって検討した。
CO2の固定化は、Labに設置した炭酸化養生槽に入れ、CO2を強制的に供給して固定化。その結果、最終的なCO2排出量は−9.7キロ毎立方メートルとなり、カーボンネガティブとなる3Dプリンティングを達成した。
ベンチの意匠は、金沢市内の公共の場に設置するため、市民や観光客に受け入れられるデザインとするべく、金沢にゆかりのある加賀友禅の製作工程“友禅流し”をモチーフとした。全長5メートル、幅0.7メートルの座面は、友禅流しの壮大さを表現している。波型形状の座面には、白色系の塗装を施し、加賀友禅が河川に漂う姿をイメージ。ベンチ脚部は、褐色系のカラーモルタルを使用して、禅流しを模した座面を引き立たせる暗めのトーンとした。
製作したベンチは、金沢工大の石川県野々市市にある扇が丘キャンパスに仮設置し、金沢市丸の内の鼠多門・鼠多門橋近くの外濠公園二号地に本設置した。
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