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「建設業のICT投資は今が好機」と語る、インフラDX大賞を受賞した地場ゼネコン「金杉建設」が抱く危機感とは地場ゼネコンのDX(3/3 ページ)

埼玉県に本社を置く地場ゼネコンの金杉建設は、ドローンや3Dスキャナー、ICT建機などのデジタル技術に早期に着目し、2015年から施工現場への積極的な導入と内製化を進めてきた。2023年2月には、その取り組みが評価され、「インフラDX大賞」の国土交通大臣省を受賞。これまでの挑戦とデジタル技術活用にかける思いについて、金杉建設 代表取締役社長 吉川祐介氏に聞いた。

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新卒3年離職率は1割 入社後ギャップを防ぐには

金杉建設 本社
金杉建設 本社

 ICT活用は社員の採用にもプラスの影響があった。「新卒採用で当社に応募してくる学生は、ほとんどがICT活用に関心が高く、内製化の取り組みにも興味を持っているようだ」(吉川氏)。

 夏と冬に実施する体験型のインターンシップにはこれまで北海道から九州まで、全国から参加者が集まった。プログラムは、座学による業界の説明に始まり、実際の現場でICT建機に触れたり、3Dスキャナーやドローンなどを使用した測量の体験も行える。夏季ワークショップでは数日間にわたり現場を体験するプログラムもあり、業務内容だけでなく、屋外の作業環境も理解した上で選考に進むことができる。建設業の新卒3年以内離職率は大卒で3割、高卒で4割程度といわれているが、金杉建設では3年で1割程度にとどまる。その理由は、インターンシップを経て、入社後のギャップが少ない状態で働ける環境が用意されていることにある。

 金杉建設には家賃1万円の社員寮があり、若手社員が多く生活している。社員寮には、社員同士のコミュニケーションの機会を増やすために、本格的なバーカウンターを設けている。新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着いてきたことから、最近では社員が集まって交流を持つ機会も増えてきた。金杉建設の若手社員は寮に入る比率も高く、「帰宅すれば誰かしら話し相手がいる状態だ。悩みを相談して解決したり、話すことでストレスを発散できたりする効果もあるのではないか」(吉川社長)。

ICT投資は「間違いなく好機」 インフラ整備で地域の安全を担う

 吉川氏は20年以上、埼玉県建設業協会 青年経営者部会で活動し、2021年度からの2年間は、任期満了まで部会長も務めた。青年経営者部会は2021年1月、国土交通省関東地方整備局、埼玉県、さいたま市との4者合同で「埼玉県地域建設業ICT推進検討協議会」を立ち上げている。地場建設業でのICT施工技術の普及を目指す取り組みだ。吉川氏も部会のメンバーとして、関係者と連携しながら、ICT活用に関する各種検討を進めるとともに、ICT施工のワークショップや実証実験に取り組んできた。

 業界団体での活動を通じて立場の異なる関係者と対話を重ねる中、「建設分野のデジタル化に関して、行政の期待は大きい一方で、建設業者の中にはまだ関心を示さない層もいる。そういった企業の意識を変えるのは困難だと感じている」(吉川氏)という。

 その上で「ICT機器へ投資をするメリットは大きい。投資に慎重な経営者も少なくないが、現在は補助金や税制優遇も比較的充実しており、間違いなく投資の好機だ」と強調し、スムーズなICT導入のためには、設備投資だけでなく、DX推進室のような運用支援を両輪で進めることが重要だと語った。

 金杉建設は関東地方整備局の「ICTアドバイザー」認定を取得しており、依頼を受けて講演活動なども行っている。中小建設業からICT導入に関する個別のアドバイスを求められるケースも多い。自社のノウハウも含めて同業他社へアドバイスをしていると「なぜそこまでするのか」と聞かれることがあるという。

 金杉建設では今後も、常に最新の技術を取り入れながら現場への導入を進めていく方針を掲げているが、吉川氏は「当社だけがICT施工に取り組んでも意味はない。建設業界には地域インフラの整備や維持管理を通して、地域の安全を確保する責務がある。地域のインフラを地域ゼネコンが支え続けて行くには、業界全体の生産性を向上しなければならない」と危機感を口にする。

 そのために「業界全体でICT活用に向き合い、省力化/省人化や生産性/技術力の向上を図り、地域の安全を守る役割を担っていけるようにしていきたい」と展望を語った。

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