情報学の視点から建築を再構成する「建築情報学」の新しい地平 次世代設計者を育成するアカデミズム最前線:Archi Future 2023(2/3 ページ)
建築情報学とは、情報技術の発達と浸透による根源的な影響を踏まえ、「建築」という概念を情報学的視点から再構成することを目指す新たな建築領域の学問。コロナ禍の2021年度に学会を設立し、次世代の設計者を育成する「そだてる」、学術論文の査読と公表などの「ふかめる」、学会内外との交流を図る「つなげる」の3本柱で展開している。
最優秀賞の次世代の空間設計と、BIMとSLAMによるドローンナビゲーション
ふかめる活動で紹介したのは、学術活動委員会の「建築情報学生レビュー」。大学/大学院で、建築情報学的な研究を志向する学生を全国から集め、自身の卒論/修論研究を発表してもらい優秀な発表を表彰した。建築情報学を志す学生たちの祭典というコンセプトで、発表会はZoom配信で一般公開した。
2022年度(エントリー開始:2022年12月1日/発表会:2023年3月4日)は31組がエントリー。3Dプリンタ、機械学習、都市モデル、メタバースなどのセッションに分かれ、各組12分の持ち時間でプレゼンした。発表に対しては、口頭での質疑応答の他に、Discord専用サーバで感想やアドバイスをリアルタイムで書き込める。
杉田氏は、2022年度のレビューを振り返り、「メタバースや生成型AIでは、学生たちが先行している」と笑いながら話した。
2022年度は上位者に差がなく、最優秀賞は2つ選ばれた。その1つが「Figital Temple〜次世代の空間設計へ」。寺院にプロジェクションマッピングを投影して、現実世界とデジタル情報を接続し、現実世界とメタバースのコミュニティーを融合させるという研究成果をまとめた動画作品
もう一つの最優秀賞は「BIMと強化学習を用いたドローンナビゲーションに関する基礎的研究」。BIMと、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)で推定した自己位置を重ね合わせた空間をエージェントが飛行し、その出力を制御コマンドとしてドローンに送信/操縦するという研究を学部生が発表したことは、審査員に衝撃を与えた
もう1つのふかめる活動は「建築情報学会論文集」。情報技術、理論と建築、都市の関係に関する知の共有と体系化に資する学術論文の掲載を目的とした査読付き論文集で、オープンアクセスのオンラインジャーナルとして、科学技術振興機構が運営する電子ジャーナルの無料公開システム「J-STAGE」に掲載している。
国内の研究成果を広く海外に発信するために、執筆原稿に英語を採用。また、査読中からプレプリント(査読前の完成論文)を公開している。投稿の締め切りは年4回で、投稿資格は、筆頭著者が投稿から掲載されるまでの期間、建築情報学会の会員となっていることで、共著者の会員資格の有無は問わない。
また、調査活動委員会が担当する「建築情報学会白書」も、ふかめる活動だ。建築情報学会白書に与えられた役割は、大きく2つ。建築情報学会の会報誌としての役割と、建築情報学の現在地を示す多声的な論考メディアとしての役割だ。掲載論考を通じ、建築情報学の現在と未来について考えてほしいとの思いが、白書刊行の原点にある。
白書は、建築情報学的領域で活躍する実務者や研究者の論考を掲載するパートと、建築情報学会の各委員会の活動やイベントなどを報告するパートで構成。池田氏は「1年に1冊しか刊行しないが、そのぶんクオリティーの高い内容になっている」と自信を示す。
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