小型ドローンに搭載可能な「軽量ミリ波レーダ」で外壁内部の欠陥を1ミリ秒で検出、阪大とJ商エレ:ドローン
JFE商事エレクトロ二クスと大阪大学は、小型軽量のミリ波レーダを用いた非接触/非破壊による外壁内部の欠陥を、ドローンの揺らぎよりも短い1ミリ秒での検出に成功した。構造物内部の高速かつ高感度の検査で、新たなドローン活用の可能性が期待される。
JFE商事エレクトロニクス(以下、J商エレ)は、大阪大学と共同で、ミリ波レーダ技術を使用した非接触/非破壊による建造物の外壁内部欠陥を検出する実験に成功したと2023年12月7日に公表した。
2021年の1回目の実験後、2回目となる今回実験では、ミリ波レーダの小型軽量化や1点あたり測定時間を1000分の1以下の1ミリ秒で検出するなど大幅な改善を証明した。
研究成果は、2023年12月5〜8日に台湾で開かれた国際会議「アジア・パシフィックマイクロ波会議(Asia-Pacific Microwave Conference: APMC2023)」で発表した。
ミリ波レーダの技術改良で、測定結果の信頼性を担保
実験は、大阪大学大学院 基礎工学研究科 教授 永妻忠夫氏、助教 易利(イー・リー)氏、大学院生(博士前期課程)の小藪庸介さん、研究当時は博士前期課程の王雅珩さんらと共同で、東京電力ホールディングス、清水建設、SocialDroneの協力を得て実施した。
第1号機から改善された内容は、「重さ」「感度」「測定時間」の3点。第1号機では1300グラムだったミリ波レーダ部の重さを、技術改良で435グラムまでに軽量化。前回の実験では6.3キロの大型ドローンでなければ実現できなかった機能を、1.4キロの小型ドローンでも可能にした。
一般的にドローンが大型化するほど、大きな揚力が必要となる。そのため、大型ドローンで外壁に近接させた場合、ドローン自身が発生する風によって、安定した飛行が困難となる。小型ドローンは大型ドローンよりも必要とする揚力が小さいため、ミリ波レーダのアンテナ部を壁面10〜30センチ程度まで近づけるようになり、内部欠陥の検出を今までよりも高感度で行える。
測定時間も、第1号機では測定箇所1点あたり数秒かかっていたが、1000分の1以下の1ミリ秒で検出。空中のドローンは静止状態でも微小に揺らぐが、数ミリ秒は揺らぎよりも短い時間のため、より精密な測定が実現する。
今回採用したミリ波レーダ技術は、光通信技術を活用したレーダシステムで、電波の周波数差分を確認することで外壁内部の欠陥位置を把握する。ミリ波とは波長がミリ単位となる30G〜300GHz帯の電波のこと。
光通信波長(1.55マイクロメートル)帯で、2つの異なる波長の光信号を発生させ、光ファイバーで伝送し、光信号を光電変換器に与えることで電気信号化する。その結果、2つの光信号の波長差に対応した周波数の電波を発生させる。光波長を精密にコントロールすると、およそ4〜40GHz(ギガヘルツ)の範囲で、任意の帯域の電波を作れる。
外壁内部の欠陥位置では、電波の周波数を変えながら、対象物に照射。反射して戻ってきた電波と、元の電波との振幅相違関係を計算することで、欠陥位置を特定できる。
マンションやオフィスビルなどの高層建築物の外壁点検作業では、ドローンを活用した高精度カメラや赤外線で、より精緻な調査も可能となってきてはいるが、内部欠陥を可視化する方法ではないため、測定結果の信頼性が課題に挙げられていた。
こうした状況を受け、J商エレは、以前から交流のあった大阪大学と協力し、物質に対する透過能力を持つマイクロ波やミリ波を用いた新たな点検方法の開発プロジェクトを始動した。2021年に第1号機を発表し、煙突内壁のライニング材の肉厚を非接触/非破壊で透視を実証。今回、レーダ部分の技術改良により、建築物外壁の内部欠陥の直接可視化に成功した。
J商エレはプロジェクトで、大規模な設備投資や人員の投入を必要としない、高効率かつ安全性を担保した持続可能な建築物の寿命伸長を目指している。今後は、ミリ波レーダを搭載したドローンやロボットを建築物に対し、2次元平面で広域走査するための技術開発、ならびにさまざまな構造物やインフラ設備の診断への実利用化を進めていくとしている。
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