阪大院 矢吹教授が解説 BIMが当たり前と考える時代に向け、その本質を知る:メンテナンス・レジリエンスTOKYO2023(4/4 ページ)
国土交通省のBIM/CIM推進委員会委員長を務める大阪大学大学院 工学研究科 教授 矢吹信喜氏が「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2023」の事前防災/減災のための国土強靭化推進セミナーに登壇。日本のBIM/CIM活用の現状の課題を整理し、その本質を実現するために、何が必要かを解説した。
3次元化は目的ではなく、手段にすぎない
講演をまとめるにあたって矢吹氏は、BIM/CIMで3次元モデルの作成ばかりに意識がいきがちだが、それではだめだと警鐘を鳴らした。
「現在は米未来学者アルビン・トフラーのいう第3の波、すなわち工業社会から情報社会への移行の真っ只中にいる。情報の本質は伝達。これまで人から人に伝えることが情報伝達だったが、1990年頃に始まるパラダイムシフトで、コンピュータとコンピュータ、あるいは機械と機械といった、物と物との間での情報伝達が占める割合が大きくなっている。その違いを理解しつつ、トランスフォームしていくことが必要だ。DXという言葉をよく耳にするが、Xとはトランスフォーメーション。本当の意味での変革をする気で向き合わないと、時代の波に取り残されてしまうという危機感を持たなければならない」
オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターの「郵便馬車はいくらつなげても、鉄道にはならない」との考え方を敷衍(ふえん)して、制度そのものをある程度変えていかなければ、今進めているインフラDX、建設DXといったイノベーションで爆発的な効果を得ることはできないと語気を強めた。
ここまで厳しい現状認識を示してきた矢吹氏だが、それでも日本の建設分野の未来は明るいと話す。「3次元化、自動化、無人化といった方向性を間違えなければ大丈夫。10年後はおそらくBIM/CIMは当たり前になっていて、誰もあえてBIM/CIMという言葉を使わなくなっているだろう」と、展望を語り、講演を締め括った。
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