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阪大院 矢吹教授が解説 BIMが当たり前と考える時代に向け、その本質を知るメンテナンス・レジリエンスTOKYO2023(3/4 ページ)

国土交通省のBIM/CIM推進委員会委員長を務める大阪大学大学院 工学研究科 教授 矢吹信喜氏が「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2023」の事前防災/減災のための国土強靭化推進セミナーに登壇。日本のBIM/CIM活用の現状の課題を整理し、その本質を実現するために、何が必要かを解説した。

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 矢吹氏は、ISO 19650にAIRやAIMが記載されている意味について、発注者が受注者に対して完工後にどの情報が必要になるかをきちんと示すことが大切だと伝えるものだと読み解く。「発注者は、もっと維持管理へのBIM/CIM活用に意識を向けるべきだ。本来、維持管理段階でこそBIM/CIM活用で得られるメリットが大きい。構造物の長い歴史の中で、事故や災害、不具合、劣化、損傷などが発生した際は、修繕工事や機能向上工事が必要になる。そのときに設計・施工段階で生成された各種情報が重要になる。先に、フェーズをまたぐときに、データを捨てるべきでないと話したのも、これが理由だ」。

発注者への維持管理に対する意識改革が必要
発注者への維持管理に対する意識改革が必要

3次元モデル作成は、納品のみが目的ではない

 課題の3つ目は、「作成した3次元モデルの有効活用できていないこと」。2023年度からBIM/CIM原則適用がスタートし、受注者は3次元モデルを作成して発注者に納品するようになった。だが矢吹氏は、その目的が「納品のためだけ」になっていては意味がなく、「3次元モデルを作成することで受注者自身の業務がより楽に、より良いものになるものでなければならない」と提言する。

ただ3次元モデルを作るだけでは意味がない
ただ3次元モデルを作るだけでは意味がない

 基本設計や予備設計の段階は、プロジェクトの自由度が高く、本来ならば斬新な発想で最適なプロジェクトの骨格を模索できるタイミングだ。ただし、さまざまなプランを検討するには、図面作成、技術計算、解析、数量計算、簡易積算、環境影響、概略施工計画、プロジェクトで得られる便益計算などを複数案に対し、超高速で行う必要がある。タスクを細分化して、異なる下請けや孫請けにバラバラに発注する現在の進め方では、うまくいかない。

 こうした状況を打開するためには、3次元モデルを複数の異なるソフトウェアで共有し、インポート/エクスポートできる環境を整えることが欠かせない。そこで矢吹氏は、「IFC(Industry Foundation Classes)」の積極活用を提案した。IFCは、建築物の3次元モデルデータ形式として、buildingSMART International(bSi)が策定した国際標準のBIMデータ規格。建築物については、2013年にISO 16739:2013として発行済みで、土木構造物については現在審査されており、順当に進めば2023年末に「ISO 16739:2023」が発行される。

 矢吹氏は、3次元モデルの有効活用のためには、データの扱い方にも工夫が必要だと主張する。「BIM/CIMのデータ量は膨大で、特に下流工程になるほど大きくなる。しかし、情報活用では全てのデータが必要なわけではない。構造部材だけが見える“窓”や仕上がり形状だけが見える“窓”を用意する必要がある」。矢吹氏が言う窓とは、例えばbSiが策定した「MVD(Model View Definitions)」で、こうした"窓"を国や分野ごとに策定することが有効活用につながると説いた。「BIM/CIMは、発注者に大きな利益を生む可能性があり、使わない手はない。今までのやり方を変えずに、ただ一部だけBIM/CIMを適用しても、限られた効果しか得られない。BIM/CIM活用効果は、英国や米国の取り組みから明らかなので、どうしたら効果を出せるか発注者も建設コンサルも建設会社も、もっと知恵を出していくべきだ」。

3次元データ活用のカギを握るIFC、MVD
3次元データ活用のカギを握るIFC、MVD

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