阪大院 矢吹教授が解説 BIMが当たり前と考える時代に向け、その本質を知る:メンテナンス・レジリエンスTOKYO2023(2/4 ページ)
国土交通省のBIM/CIM推進委員会委員長を務める大阪大学大学院 工学研究科 教授 矢吹信喜氏が「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2023」の事前防災/減災のための国土強靭化推進セミナーに登壇。日本のBIM/CIM活用の現状の課題を整理し、その本質を実現するために、何が必要かを解説した。
ECIとは、請負業者を決めるための入札前設計(現状の詳細設計)に建設会社が関与し、より詳細化する。詳細設計付工事発注方式とは、入札後に請負業者(および建設コンサルタント)が詳細設計を詳細化する方法。DBは、詳細設計段階から請負業者を決めること。CM@Rは、設計コンサルタントに施工知識を持たせ、施工会社が決定したあとも詳細設計を続けて完成度を上げるというものだ。
矢吹氏は、4つの方法のうち、日本で採り入れやすいのは、ECIと詳細設計付工事発注方式との持論を展開した。「国レベルである程度対応できるのはECI。国土交通省 近畿地方整備局の名塩道路城山トンネル工事では、鴻池組がトンネルと大規模な掘削の道路工事をECIで施工。設計段階から施工会社が関与することで、より良い設計がなされたと報告されている。
一方、都道府県庁やNEXCOといった高速道路会社では、詳細設計付工事発注方式が比較的取り組みやすい。NEXCO西日本の松山自動車道の双海橋工事では、詳細設計付工事発注方式を採用。鹿島建設と富士ピー・エスのJVで、主に橋梁(きょうりょう)下部工を手掛けた鹿島建設がBIM/CIMとWBS(Work Breakdown Structure)を活用している。
BIM/CIM活用でデータドリブン型の維持管理を実現
課題の2つ目は、「維持管理にBIM/CIMを活用できていないこと」。矢吹氏は、日本では維持管理分野へのBIM/CIM活用が手付かず状態だとし、「BIM/CIMならば、完工したタイミングで3次元のアズイズモデル(As-is mode:現状の姿)ができる。それを随時更新させながら活用することで、データドリブン型(収集したデータをもとに意思決定をすること)で効率的な維持管理が可能になる」と説明し、その実現のための2タイプを提案した。
その1つは、COBie(Construction Operations Building Information Exchange)の適用だ。COBieは、完工したビルディングのBIMモデルから、オペレーションとメンテナンス(O&M:Operation & Maintenance)に必要な施設内の空間と設備、属性情報を自動的に抽出して、スレッドシートに自動転送やエクスポートするデータ仕様。米国と英国では官発注の建築物で義務化がされており、ビルメンテナンスなどにも活用されつつある国際標準となる。
ただ、日本では全く活用されておらず、矢吹氏も早期適用には悲観的だった。「COBieを実施するには、構造物や部材、属性などに関する用語と定義の標準化が必要。欧米では20年以上かけてこれらを整備してきたが、日本では進んでいない」(矢吹氏)。
矢吹氏がもう1つ提案するのが、共通データ環境(CDE:Common Data Environment)。CDEは英国で打ち出された概念で、プロジェクトの上流から下流まで、受発注者などのステークホルダーが、主にクラウド上で安全で効率的かつ正しくデータを共有、交換、提出、アーカイブできる環境の仕様を指す。既に国交省は、CDE適用への取り組みを進めているが、矢吹氏はまだ十分ではないという。「土木工事などの情報共有システム活用ガイドラインでは、作業中/共有/確定情報/アーカイブの4つのフェーズで、データ作成のプロセスで情報共有のイメージを示しているが、CDEの価値はそれにとどまるものではない」。
CDEの価値について矢吹氏は、BIMを使用して構築した資産〔=情報〕をライフサイクル全体にわたり管理するための国際規格「ISO 19650」に記載されている「資産情報モデル(AIM:Asset Information Model)」と「資産情報要求事項(AIR:Asset Information Requirements)」に注目。AIMは、建物やその土木構造物が完工した際、発注者に対して受注者が提出する属性情報を付与した3次元モデル、つまりアズイズモデルのこと。AIRは、完工した建物や土木構造物の中で、発注者が維持管理に必要な情報は何かを列挙した要件書。
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