千葉の地場ゼネコン「旭建設」が“新卒の離職率ゼロ”にできたワケ:建設業界に一石を投じるICTインターンシップ(2/2 ページ)
千葉県内で地域密着型の建築工事を展開する「旭建設」が企画している学生向けインターンシップ。学生で参加した直近4年の新入社員は、現時点で離職率ゼロだという。地場ゼネコンが若年層にどのように建設業の魅力を伝え、人材確保につなげているか、ワークスモバイルジャパンなどの建設ICTベンダーも参画する業界では珍しいインターンシップを取材した。
企業と学生のミスマッチを防ぐ場に
フォトラクションは、工事写真や図面、工程表などを一元管理するモバイル用施工管理アプリ「Photoruction(フォトラクション)」を提供するシステム開発会社だ。Photoructionの他にも、AIを活用して検査の前準備や施工が始まる前に、計画書を作成するといった作業のアウトソーシングにも応じている。
Photoructionを使うと、現場の写真による進捗管理が効率化される。従来であれば、小さな黒板に工事内容を書いて写真を撮り、事務所に戻ってから分類や整理をしていたが、煩雑なため、長時間作業となっていた。Photoructionでは、スマートフォンで現場写真を撮るだけで、画像がクラウドにアップロードされて、写真に設定している情報をもとに自動で分類。台帳にも登録され、関係者への共有までが一元化し、現場管理者の負担軽減につながる。
入社後のミスマッチをなくしたい
共同インターンシップを企画した旭建設 西田文子氏は、インターンシップへの参加が必修化するなかで、企業と学生のミスマッチが発生していると気付いた。
興味のない企業や業界で、10日間ものインターンシップに時間を費やすことは、学生にとっても受け入れ企業にとっても得るものがない。西田氏は、「行きたかった企業のインターン選考に落ちたやインターン先を選べない学生を助けた気持ちが湧いた」と企画意図を語る。
学生が希望する企業や業界でインターンシップを体験できると、入社後のミスマッチも起きにくい。旭建設では、直近4年のうちに入社した新入社員は、全員インターンシップを経験しているが、現時点で離職率はゼロとのことだ。
今回のプログラムで、学生は建設業の3社の業務を体験したことで、仕事内容や企業の比較ができる。LINE WORKSやPhotoructionといった建設ICTに触れることで、建設業界がデジタル変革に取り組んでいることも理解し、従来のネガティブイメージを持っていても払拭(ふっしょく)につながるだろう。
建設業の人手不足に注目が集まり始めてしばらく経つが、新卒の学生に対して業界の魅力を正確に伝え、入社後のミスマッチを防ぐ取り組みは珍しい。今回紹介したような共同インターンシッププログラムは、建設業の人材確保に確実にプラスとなるはずだ。
建設業界は、ICTやAIといった新しいデジタル技術によって急激に変化している業界。そのダイナミックな魅力を学生に伝えるには、現場を体験してもらうのが最適だろう。その機会を増やす共同インターンシッププログラムの普及と浸透に期待したい。 (川本鉄馬)
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